宝塚歌劇団。それはおよそ100年前に産声を上げ今もなお人気を集める、未婚の女性のみで構成された歌劇団。華々しく行われる芝居やレヴューにファンたちは心躍らせ、自分の人生をそれ一色に染め上げていく。ヅカファン。それは宝塚歌劇団に身も心も捧げたファンたちのことなのである……
- 作者: はるな檸檬
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/07/22
- メディア: コミック
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とにかく全編通して宝塚への愛があふれてます。愛しかないといってもいいのかもしれません。描いているのは宝塚歌劇団についてではなく、あくまでヅカファンの生活です。彼ら彼女らにとって宝塚がどれだけ大事なもので、どれだけ心の支えになっていて、どれだけ愛しているのか、そんなことしか描いてません。その描き方も、好き好き大好き超愛してるという暑苦しさが前面に出ているのではなく、一般人的視点とでも言いましょうか、妙に冷めた視点なのが面白い。人物をアップで描かないからなのか、効果線等がほとんどないからか、(悪い意味でなく)動きがないからなのか、とにかく愛はあるのに温度が低いのがいい感じです。
さてエッセイ漫画とギャグ漫画の狭間にあるような本作ですが、その世界を知らない自分にとっては、はたしてここで描かれていることがどこまで本気なのかがわかりません。
ヅカファンたちは、友人からの出産報告メールにはおめでとうの言葉と一緒に宝塚音楽学校(歌劇団に入るためにはそこを卒業する必要があるそうです)にいつ入学すれば第○○期だねとノータイムで返信し、階段を降りるときには背筋を伸ばして正面を向き(歌劇場にある大階段をスターはそのように降りるそうです)、恋人と会う間も惜しんで兵庫に向かい(宝塚の本拠・宝塚市は兵庫県にあります)、会社の仮装パーティーでジャンヌ(宝塚を代表する名作『ベルサイユのばら』の登場人物だそうです。主役級ではなさそう)のコスプレをするために4万円で衣装をオーダーし、宝塚アンの袋をグッズでいっぱいにしながら「あたし別に好きじゃないよ」と言い(「宝塚アン」とは、宝塚関係のグッズショップだそうです)、机の中に母宛の遺書として自分が死んだときに棺桶に入れてほしいグッズの品目とその配置の仕方およびPCを中身を見ずに叩き壊す旨の言葉をしたためておいたり。いやあギャグなんだろうけどさあ。あ、でも宝塚アンのネタは作者の実体験で、ヅカファンの友人がそうのたまったのだとか。業が深いぜ。
こんだけ注釈を付けながら文章を書いているのも私自身が宝塚についてほとんど知らないからで、読みつつ「なんだそりゃ」とおもったことについて適宜加えています。完全に異文化の世界です。生活の基準が完全に宝塚。有給は見たい公演に合わせ、月に2日しか休みがなかろうともその日にある公演を見に行き、ある商品の値段が高いか安いかは劇場のS席チケット8500円より上か下か。東京に居を構えるときは日比谷まで一本で行けるかどうかが最優先事項(東京宝塚劇場は日比谷にあるそうです)。
若干以上にあきれつつも、それ以上にとにかく楽しそうと思うのです。若干のうらやましさすらあります。「それが支え」と臆面もなく言えるものがあるなら間違いなく幸せ。その過程で受けざるを得ない苦しみ辛さ(具体的には贔屓のスターの引退とか)も、それ以上の幸せの裏返しなのです。いいなあ。ギャグ的な面白さと共に、楽しいものを心の底から楽しんでいる人々の姿はいいなあという気持ちにさせてくれます。
web連載なのですが、第1話と最新の約200話が読めます。4コマを1本とはいえ、平日毎日連載ってすごいですね。
ZUCCA×ZUCA ヅッカヅカ / はるな檸檬 - モーニング公式サイト - モアイ
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