しばらく前に友人の家で全巻一気読みした『おおきく振りかぶって』を、改めて自分で買いました。やっぱ面白いですね、この作品。
この作品の魅力については、「試合中の選手の緻密な心理描写」「ご都合主義のないリアルな展開」などが各所で言われますが、そういうのとはちょっと違った方向からの、この作品の魅力なんかを書いてみようかと。
- 作者: ひぐちアサ
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2010/06/23
- メディア: コミック
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で、高校生たちが食事にがっつくその姿が魅力的でしょうがない。魅力的というか、読んでるこっちも「飯を腹いっぱい食いたい!」と思わせる力というか。
(おおきく振りかぶって 1巻 p101)
「空腹は最大のスパイス」の言葉どおり、腹が減ってればなんでも美味く感じます。というか、腹が減ってるときに仰々しい料理なんていりません。塩むすびにたくわん、それにお茶があればむせび泣くほど嬉しいですよ。簡単にがっつけるほど、美味しい。『極道飯』の最初のおせち争奪戦では、山中を一昼夜ほぼ飲まず食わずで歩き回った後に最初に食べた、朝食の卵かけご飯の話が満点を獲得していましたが、それも似たようなものですね。
- 作者: 土山しげる
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2007/10/27
- メディア: コミック
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(おおきく振りかぶって 4巻 p147)
そらがっつく。めっさ美味そう。想像するだけで喉がなる。
高校時代から楽器を始めた文化系人間の私には、全力で運動をして、どうしようもないくらい腹が減ってから全力で飯を食うという経験から遠ざかって久しいです。サッカーやってた小学校くらいまで遡らなければたぶんないでしょう。
まず運動でくたくたになってるキャラクターを描写するから、その後に描かれる食事シーンが活きる。この作品で描かれているレベルまでの運動と食欲に身を浸した人はそう多くないかもしれませんが、運動も食事も普通の肉体を持っている人なら必ずしているはずの行為です。そして描かれている運動も食事も、肉体の若さを彼方に置いてきてしまった人には厳しいものかもしれませんが、決して常軌を逸したものではなく、想像の範疇に収まるものです。ですから、「もしかしたら自分もこんな環境に身を置けたのかも」と、追体験をしながら読むことができるのです。
こんなに動けばこんだけ疲れるだろう、こんだけ腹が減るだろう。そんな状況で飯を目の前にしたら……
どうです?腹が鳴りませんか?
で、この食事の追体験が、試合のシーンを読むときにも好影響を与えると思うのです。
追体験をするという事は、キャラクターに自分の身を置いてみるという事です。それは感情移入とそう変わることはありませんし、むしろそれ以上のものでさえあるかもしれません。感情移入というよりは感覚移入ですから、身体的なレベルまでキャラクターに没入できるのです。
なものだから、コミックスで続けざまに読んでいくと、食事シーンでキャラクターに感情(感覚)移入をしたまま試合に突入しますから、選手たちの心理により深く触れられる。ただでさえ定評のある緻密な試合中の心理を、より内面化できるのです。あるいは、この食事シーンがあるからこそ、メンタルの描写がいい、という評価が生まれるのかもしれませんが。
読んでその料理が食べたくなる漫画No.1はよしながふみ先生の『愛がなくても喰ってゆけます。』ですが
- 作者: よしながふみ
- 出版社/メーカー: 太田出版
- 発売日: 2005/04/16
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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とまれ、体育会系高校生男子の「若さ」を追体験するにはもってこいのこの作品。高校では吹奏楽部を選び遊び倒した私も、団体競技の運動部でもよかったかな、と思ってしまいますことですよ。
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