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癖のある級友たちとの癖のある会話劇と普通の日常『スペシャル』の話

田舎の高校へ転校してきた女子高生・葉野は、奇天烈な級友たちと出会う。いつもヘルメットをかぶっている怪力女子高生・伊賀。金に物言わせる金持ちの娘・大石。その大石のナチュラルボーンパシリ・谷。ガソリン大好き(ただしレギュラーに限る)、死んだらガソリンに遺骨を浸けてもらいたい女・藤村。気分を害すると他人をつねらずにはいられない危険な女・筑前。豆大好き・会藤。一癖も二癖もある級友たちに戸惑いながらも意外に馴染んでいく葉野。これはそんな彼女らの日常を描いたコメディである……

スペシャル 1 (torch comics)

スペシャル 1 (torch comics)

ということで、平方イコルスン先生の新作『スペシャル』のレビューです。
常識人(たぶん)がやってきた田舎の高校にはようわからん人間がいっぱい。上記のとおりの奇人変人、というには何か違う、癖のある奴らとの、癖になる会話劇が日常的に繰り広げられます。
イコルスン先生の作品の特徴はなにより、セリフ回しにおける言葉のチョイスでしょう。日常生活の中にあるのに日常会話ではまず使われない、基本的には文字表現でのみ見かけるような言い回し。もちろん漫画のセリフも文字表現なわけですが、それはあくまでキャラクターが口にしているという体なわけで、多少の整理修正はあるものの、漫画のセリフは基本的に現に私達が口にする会話の延長線上にあります。しかし、イコルスン先生のそれはちと違う。文語的とでも言おうか、文章的とでも言おうか、漢語表現の乱舞とでも言おうか。ひょっとしたら、今まで耳目に触れさせてはいたもののどこで使っていいかわからなかった表現を用いて、「会話表現を『脱臼』させている」と言ってもいいのかもしれません。ようやく使えたぞ、比喩表現の「脱臼」。あってるのか?
「ころせーっ」「わがサッカーは人を活かす活人球」
筑前につねられずして級友づらすんな …ってみんな思ってんで」「現地の慣習は事前に知りたいなぁ…」
「無理や! 俺の肉体にはとんでくる家電を受け止めるだけの規格が備わってへんし」「…谷がどんな衝撃にも耐えうる驚異の人材ならよかったのに……」
「頼む! 帰属させてくれーっ」「だめ」「帰属〜」「ノン帰属」
ノン帰属。なかなか言えないなこの言葉。
この、登場人物たちと同等かそれ以上に癖のあるセリフ回しが、素朴なデフォルメ絵柄のなかで展開されるのがまたステキ。絵が丸っこいから、これらのセリフがカッコいいとかイカした感じではなく、三枚目たちによる狂言舞台のようで、奇妙にリアルなフィクションになるのです。そう、この普通ではない会話が普通のものとして進められている感じは、舞台的といってもいいのかもしれませんね。
今までのイコルスン先生の作品は登場人物が単発であることがほとんどだったと思うのですが、本作は続きものなので、話が進むごとに登場人物の内面が深まっていきます。内面が深まるというと大げさですが、要はある人物の色々な面が日常のなかで少しずつ見えてくる、ということです。新たに見えた一面が新たな言葉づかいで描き出され、このキャラクターのこの振舞この性質がこんな風に表現されるのかと唸らされる。なんでもないはずの日常が、全然なんでもなくない言葉で表現されるこの面白さよ。
とりあえずこちらで試し読みができます。
トーチweb『スペシャル/平方イコルスン』
癖のあるキャラクターたちともっと癖のあるセリフ回しがつい癖になってしまう本作。気がつくと何度となく手に取ってしまっています。オススメ。
ところで、イコルスン先生の描く泣きじゃくる女の子ってかわいいですよね。15話の泣きじゃくる大石さんがかわいい。


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