今年も開催されている俺マン2018.
oreman.jp
例年通り乗っかって、今年読んだ漫画のお薦めを挙げたいと思います。
企画自体のレギュレーションは「その年自分が面白いと思った作品」と至極緩いものですが、俺ギュレーションとして、「今年発売された作品5つ」というものを付け加えます。まああんまり昔の作品を漁ってはいないんですが、例年のこととして。
それではレッツゴー。
私の胸をざわつかせてやまない作家・阿部共実先生の放ったボーイ・ミーツ・ガール。男の子と女の子、青春と青春未満、孤独と友達、独りと二人、現実と幻想、現実と夢。色々なもの境界線を行きかい、融けあい、子供が大人になる階に手をかけるその瞬間を、ポップな絵とリリカルな言葉で描き出した傑作の完結巻が、今年の2月に発売されました。
同じようで違う孤独を抱く水谷と月野。誰もが人に見せたり見せなかったりした、でも誰もが必ず感じていたに違いない、いつの間にか変わってしまった(と感じた)周囲とどこまでいっても変われない自分の戸惑いが、この二人の中学生を通して瑞々しく、それでいて痛々しく、その上で美しく語られているのです。
当然これを読んだ私はもういい大人であり、自分の中学校時代の不安を思いだすように、あるいはそうであったかもしれないと糊塗するように読みましたが、果たして現役の中学一年生が読んだら、つい数年前までその立場であった高校生が、もしくはそうなるであろう小学生が読んだら、いったいどのような感想を持つのか、それが非常に気になる作品でもあります。もし私が中一の時分にこの作品に出会っていたら、と想像すると空恐ろしくすらありますね。良くも悪くも今とは少し違う自分になっていただろうなと思わせる、それだけの力がある作品です。孤独に寂しさを感じる心を指し示し、自分を理解してくれる人の存在の嬉しさを見せつけ、その人とも必ずいつか別れが来るという現実を見せつける、そんな力。
試し読みはこちらから。
comics.shogakukan.co.jp
amazarashiが本作にインスパイアされて作った楽曲「月曜日」もまたドチャクソいい曲なので、あわせて聴いてほしいです。
www.amazarashi.com
映画好きが昂じて、映画みたいな青春を過ごせる部活に入りたいと思っていた男子高校生・熱川鰐人。しかし、その映画好きが祟り、数々のトラップに誘い込まれるようにして彼が辿り着いたのは、学内の変人が集まる、死ね部こと映画研究部だった。かくして、フ○ース(とおっぱい)に導かれて死ね部もとい映画研究部に入部することになった鰐人は、なんとか青春らしいことをしようと映画製作を始めたいのだが、曲者ぞろいの死ね部の説得は一筋縄でいくわけもなく……
という、ビリー先生の商業デビュー作『シネマこんぷれっくす!』が俺マン2018にランクインです。私自身は映画を人並み以下にしか嗜まないのですが、それをすっとばすようなスラップスティックコメディがとても楽しいです。
洋画は字幕か吹き替えか? B級映画の楽しみ方は? マッドマックスの最高傑作は? HIGH&LOWはパリピのための映画なのか? 漫画原作映画の是非について。洋画の砲台の是非について。そんな話をテーマに繰り広げられる、畳みかけるようなギャグ台詞の応酬、派手なリアクション、コマ割りによる間のとり方は、まるでよくできたコントのようで、すいすいケラケラと笑いながら読めます。
今年のギャグ枠ベストは確実にこの作品。
第一話の試し読みはこちらで。
シネマこんぷれっくす! 無料漫画詳細 - 無料コミック ComicWalker
作品の幅を広げている施川ユウキ先生が送りだした、生と死について真正面から取り組んだ作品。
比喩でなく永遠の命を持つπ(パイ)とマッキの幼い姉弟は、同じく永遠の命を持つ母とともに、人間が滅びた世界で三人仲良く、何も変わらない、変われない日々を過ごしています。しかし、そんな不変の日常で出くわしたのは、不時着した宇宙船。ただ一人搭乗していた瀕死の乗組員は妊娠しており、なんとか無事に子供を産んでから、この名前だけを告げて、事切れました。とりあげた赤ん坊を二人で育てていこうと決心した不死の二人は、人間と、変化する人間と、成長する人間と、いつか必ず死ぬ人間と、初めて共に暮らすことになったのです。
生と死という、真正面から取り組むにはあまりにも重く、真正面から取り組まなくてはあまりにも軽くなってしまう問題。そこに唯一の答えなどなく、未来永劫でないかもしれません。ならばできるのは、問いの答えを出すことではなく、問いの解き方を残すこと。私は生と死についてこう考えると記すこと。その在り方について物語ること。たったの2巻という短い冊数の中で、不死のものは生をどう思うのか、定命のものは死をどう思うのかについて、一つの物語を描いています。
良い作品は、受け手に答えをもたらすのではありません。問いを突き付けるのです。
私はこう考えた。ではあなた(受け手)は?
問いを突き付けられた受け手は、問いに対して何らかの答えに辿りつこうと、解法を探します。他の人間の解法を参考にし、それがしっくりこなければ自分なりに調整し、私はこう思うと形にせずにはいられないのです。
ほぼすべての人間が滅亡した世界で、ケッテンクラートに乗って旅するチトとユーリ。僅かに生きのこった人間に、滅んだ文明の残滓に、世界の最期を看取るものを通り過ぎながら、二人が最後に至るのは……
という、つくみず先生の終末ものです。遅まきながら、本作を本格的に読んだのは最終巻発売後だったのですが、いやはや結末まで猛然と読んでしまいましたね。どうしようもない世界を、どうしようもないままに、絶望を忘れずに描き切ったこの作品は、何度読んでも最終巻で心震わされずにはいられません。
ディストピアの果ての果て。もう手の施しようのない世界を、ただひたすらに進む二人。そこには目的があるようでないようで、言ってしまえばまだ生きてるから進むのです。人間だから進むのです。他に誰もいない世界でも、消え去る世界を惜しむことしかできなくても、ゴールに救いがあると信じていなくても、まだ生きてるから進む。人間だから進む。
そう、それは本当に進むだけの物語。前に進むだけの物語。続いてくのが未来じゃなくても、救いじゃなくても、前に進めるから進む。進めるところまで進む。
じゃあ、進み切ってしまったら? 旅のどん詰まりには何があるの? 終わることしかできない世界の果てには何があるの? 私たち以外に、何が。
残酷で、絶望的で、希望なんてなくて、救いなんてなくて。でも、隣には、あなたがいて。あなたがいなければ、前になんか進めなくて。
派手さなんて微塵もない、でもとてもかなしくうつくしい、世界の店じまいの物語です。
試し読みはこちらから。
kuragebunch.com
テナーサックスプレイヤー・宮本大が、世界一のジャズプレイヤーを目指す物語。
とにかく演奏シーンが熱い作品。音が聴こえてくる、とは言いません。曲を知らないのにその音が聴こえるというのは、なにか違うと思うのです。けれど、熱が届いてきます。演奏前の緊張、上手く演奏できない焦りや不安、ギアが噛み合ってきたテンションの高ぶり、共演者とフィーリングが一致した瞬間の興奮。プレイヤーとして、あるいはオーディエンスとして、演奏がなされているその「場」の空気を体全体で味わうような表現は、今まで読んできた音楽をモチーフにした作品の中でも屈指のものであると断言できます。
私事ながら、私も大と同様テナーサックスを吹いており、この作品で描かれているような熱を、自分も共演者も聴衆も味わえるような演奏ができたらと思っています。
試し読みはこちらから。
bluegiant.jp
以上、俺マン2018のノミネート作品でした。
他の候補作品には、『金剛寺さんは面倒臭い』、『異世界おじさん』、『かぐや様は告らせたい』、『へうげもの』、『プリンセス・メゾン』、『僕の心のヤバいやつ』、『映画大好きポンポさん2』、『Dr.STONE』などがあります。
来年もまた、心震わせられる作品に出会えることを祈って、良いお年を。
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