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漫画の話です。

二人のこびとはどこへ逃げる 『ヨルとネル』の話

人目を避けて旅をする二人のこびと、ヨルとネル。研究所から逃げ出した二人は、南へ、南へ。その道程は、辛くて、厳しくて、楽しくて、不安で、でも二人は旅をする。逃避行の息つく先はどこなのか、何なのか、二人は知らない。でも二人は旅をする。なんかふざけたことをしてふざけたことを言い合いながら……

ということで、施川ユウキ先生の新作『ヨルとネル』のレビューです。本作は、施川先生の作品にしては珍しく設定がシリアス。普通の人間からこびとになってしまった二人の少年が研究所から逃げ出し、あてどなく旅をするというものです。本気の逃避行なので追っ手もかっているし、二人も見つからぬよう路傍の片隅や主のいない家などで人目を忍んでいます。
でも、そんなハードな状況にもかかわらず、二人の会話はいつもの施川節。詳しくは最後のリンクで試し読みを読んでほしいのですが、上手い言い回しとそれをスカす半畳、日常を突然異化するセリフと、施川先生の読者にはおなじみのヤツです。でも、やっぱり設定を反映してか、一話分の終わりはちょっぴりビターに締めています。終わりの見えない逃避行を続けなくてはいけない少年二人。その道のりが楽しいだけのものであろうはずがありません。人目を忍ぶ旅だから、移動は基本夜ばかり。明けない夜はありませんが、果たしてそれがいつになるのか、当の夜の中にいる自分達にはわからないのです。一日の終わりに彼らが発する言葉。そこには不安が常に仄見えています。
全1巻で完結する本作、二人がこびとになってしまった理由も、この逃避行が最後にどうなるのかも、すべて描かれています。この結末は是非読んでほしいです。今までの施川先生の作品にはなかったシリアスな物語が、いったいどのような形で終わりになるのか、一読の価値ありです。私はビビりました。そして心揺さぶられました。是非皆さんも、心揺さぶられてください。
ところで、施川先生の他の作品で世界設定だけは妙にシリアスなものとして、『オンノジ』があります。あらゆる生物がいなくなった世界で出会った少女とフラミンゴ 『オンノジ』の話 - ポンコツ山田.com
少女とフラミンゴになった少年以外誰もいなくなってしまった世界で、二人(一人と一羽?)が生きていくというのが『オンノジ』の設定。実際に、他に生き物は誰一人何一つ登場せず、延々二人だけの世界が描かれています。しかしこちらの作品は、登場人物の性格ゆえか、悲愴感があまり漂っていません(さすがに皆無ではないですが)。
自分と相手以外誰も頼る者のいない世界。そのような共通点を持ちながら、作られる物語は大きく違っています。
実は、作者である施川先生によると『ヨルとネル』と『オンノジ』は、ルーツを同じくする作品であるとのことです。

家にあった『自虐の詩』をたまたま手に取り読み返した所、「これはキャラクターが役割から解放される話なのでは?」と唐突にひらめきました。そのひらめきを元に描いたのが、前作『オンノジ』と本作『ヨルとネル』です。どこがどう関係しているのか、感覚的な部分が多いので説明は省きます。ただ『自虐の詩』がなかったら、両作品ともに、おそらく今あるようなカタチでは描けませんでした。
(ヨルとネル あとがきより)

とのことです。
これについても、改めて両作品を読み比べた上で、何か書きたいところです。
『ヨルとネル』の試し読みはこちらから。
ヨルとネル/施川ユウキ
『ド嬢』アニメが放映されるわ、本作が出るわ、『ド嬢』3巻も出るわで、今月は施川ユウキ先生のアタリ月ですね。


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