子供の頃から頼まれごとには嫌とは言えず、友人の連帯保証人になったのが運の尽き。友近太一(24歳フリーター)は借金返済の代わりに、肺がんにかかった胴元の親分の快癒を祈って四国八十八箇所霊場巡礼、いわゆるお遍路さんを回ることになった。歩き始めて早々に出会ったのは、やたらとエロスな妙齢の女性・生名ハルカ。何の因果か彼女と同行することになった彼、出発早々からこんな調子では、この先何に出会うことやら……
- 作者: 岡本一広
- 出版社/メーカー: アスキー・メディアワークス
- 発売日: 2011/12/15
- メディア: コミック
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男女二人がお遍路さんを巡って人生を見つめなおす。内容をこれだけで済ませると、あまりの地味さにビビりますね。老人向けの漫画雑誌があったら載ってそうな内容ですが、掲載されているのがメディアファクトリーのwebコミックなんですから、時代の流れとニッチ産業とはげに恐ろしいものよ。
でも、外見の地味さと中身の滋味深さは関係ない訳で。
自分の流され人生に嫌気が差している太一と、自己中心的な自分の性格にうんざりしているハルカが、自分にないものを相手が持っていることを知り、少しずつ心を通わせていく過程がほんのりしてていい感じ。
お遍路さんの道中も二人きりというわけではなく、同じお遍路さんを巡っている人や、地元の人とも交流があって。お遍路さんに地元の人間が食べ物や飲み物、その他道中に役立つようなものをあげることを接待といい、それを受けたお遍路さんはお返しに、納札(おさめふだ)という寺に参拝した証となる紙をあげるそうで、そういう文化があるのだから必然、お遍路さんの最中に見ず知らずの人との交流も生まれるのです。流されやすい性格にしろ、自己中心的な性格にしろ、どちらも対人関係の悩みなのですから、このような交流で自分の至らないところが見えてくるのですな。また、お遍路さんという非日常を共有している人間同士ですから、たまたま出会った他のお遍路さんとも会話も弾みやすくなります。たとえば作中では、引きこもりから抜け出そうと決心した若者と、夫を亡くした悲しみをふっきろうとする初老の女性が登場しますが、偶然出くわしたその二人が意外な理由で結びつくのです。漫画のエピソードとはいえ、それでも実は意外と起こりそうと思わせる、それがお遍路さん。
おお、そう考えるとお遍路さんは、意外なほど物語を作りやすい題材なんですな。宗教的な行為でもあるわけですから、それを思い立った理由になにかしらドラマチックなものもつけやすいし。
派手さはないし、絵も決してうまい訳ではないのですが、素朴な魅力がゴロっと転がっている感じの作品なのですよ。お気に召しましたらお願いいたします。励みになります。
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