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『空が灰色だから』心がざわつく理由の話

空が灰色だから 2 (少年チャンピオン・コミックス)

空が灰色だから 2 (少年チャンピオン・コミックス)

2巻も好調にざわざわさせてくれる『空が灰色だから』(1巻のレビューはこちら)。時として直視するのがきつくなるほどのこのざわざわ感、いったいなにゆえに発生しているのか、むりくり直視しつつちょいと考えてみようかと思います。
「読んでてなぜざわざわするか」と考えた時にまず思いついたのは、「結末がどうなるかわからないから」というものでした。ポップでキュートな絵柄で描かれているこの女の子たちがこの先いったいどういう目に遭うのか、読んでてそれが予想できない。明るく始まった話が明るく終わらず、暗く始まった話が暗く終わらず、かと思えば初めから漂っていた不穏な空気がページを繰るごとに膨らみ続けそのまま押し潰されるように終わったり、明るく転がり始めた話が何の落とし穴にもはまらず終わったり。1巻を読んでその感覚が植えつけられたおかげで、2巻ではなおのこと「この話がどう展開するのか読めない」と思ってしまい、いっそうざわざわしながら読み進めることになります。
予想のつかなさ。
端的に言ってそれが第一の原因です。
じゃあそれをもう一歩進めて、なんで予想がつかないとざわざわするのか。
それはきっと、各話を読み終えるその時までずっと、読み手がキャラクターの明るい未来と暗い未来の間で宙吊りにされるから。
この作品の女の子たちは皆ポップでキュートです。先の読めない話の中では、そんな女の子たちの未来(結末)が明るいものになるのか暗いものになるのか、読み手は予想がつかない。つまり、心が落ち着かない。着地点が見えない物語に対する、心の宙吊り感。それがざわざわ。
どんでん返しはエンターテイメントの基本ですが、コテコテのベタも同様に基本。長い物語であれば、一つのお話の中にその両方が入るけれど、短編オムニバスのこの作品では、上手く収めようと思えばどちらかを選ぶことになります。でも、どんでん返しのインパクトは、それまでがコテコテだからこそ活きるもの。つまり、どんでん返しの上手い短編は、それがコテコテで終わるのか最後にぶっくら返されるのか、ラスト1ページを読むまでわからない。中編以上のどんでん返しなら、どんでん返した後にいくばくかの余韻があるでしょうが、短編にそんな余裕はない。どんでん返してそのまま投げっぱなしジャーマン。読み手は投げ飛ばされて呆然。
それがオムニバスとしてぽんぽん続くのですから、宙吊りにされた読み手に休む暇など無いのです。
あと、女の子たちの「ポップでキュート」はけっこう大事で、これがもっとリアル寄りの絵柄、あるいはヘタウマちっくな絵柄であれば、こういうざわざわ感ではないと思います。デフォルメの利いたキュートさだからこそ、話の展開から生まれるずれた歯車の軋みにきっついものがでてくる。簡単に言えばギャップというやつですが、それのネガティブな方向のやつです。
「ポップでキュート」は美醜ではなく、二次元上での人間の顔のデフォルメの仕方であって、たとえば浦沢直樹先生だとか、福本信行先生だとか、花沢健吾先生だとかが話はそのままにこの作品を各先生の絵柄で描いたとしても、「ざわざわ」にはならないような気がします。いや、福本先生なら別の意味で「ざわざわ」だろうけど、そういうこっちゃなくて。
より具体的な例としては、モーニング2で連載されていた『女たちよ』ですが
女たちよ(1) (モーニング KC)

女たちよ(1) (モーニング KC)

この作品も『空が灰色だから』同様、常識の平均台から足を滑らせている女性たちを描いた短編オムニバスなのですが、そこから受ける印象が「ざわざわ」でなく、もっと息苦しいもの、心臓をぎゅっと握られるかのようなもの、言ってみれば精神的に圧迫してくる「ざわざわ」とは違い、身体的に圧迫されるようなものであるのは、その絵柄に拠るところが大きいような気がします。『女たちよ』はリアル系とも違い、決して上手いとは言えない絵なのですが、その分妙な迫力があり、「この女性(女の子)がどうなってしまうんだろう」という保護者的な不安よりも、「この女性、いったい何をしでかすんだろう」という爆薬の周りにいるような不安が近いのです(まあその感じは、『女たちよ』から終始漂う血の臭いにも由来するのでしょうが)。
そう、保護者的な不安。保護欲が刺激されるようなポップなキュートさなのに、向こうは漫画だからその保護欲は直接解消させようがない。紙の向こうでどんな展開になろうとも、手が出せない。
キャラクターの前に待ち受けている先の見えない未来のために宙吊りにされながら、その未来に関与できないもどかしさ。コミックスで読むと、それが続けざまに襲ってくる。ざわざわざわざわと、足元から身体全体を押し包むように。そんなところが理由かなーと思います。
前にも書きましたけど、「是非読んで!」とお勧めする事は出来ないけど、「試しに……どう?」とそっと置いておいて、共感してくれたら是非とも話し合いたい、そんな作品です。


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