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漫画やアニメ、小説などについて、思ったことを恬淡と。

神戸在住/木村紺/講談社

神戸在住(10) <完> (アフタヌーンKC)

神戸在住(10) <完> (アフタヌーンKC)

進学時に東京から神戸に家族で引っ越した大学生を主人公の視点から描く、エッセイ的な漫画。

人物の線が、少ないけれどしっかりしている優しい絵柄。ベタやトーンを使っていないのも、その印象を強めます。背景や小物の書き込みも、シンプルだけど書き込むところは書き込んでいます。ごみごみした路地も線のみで表現するので、ページ全体が白々として、重くなりません。
あと特徴的なのは、コマとコマの間に、主人公のモノローグが入ることです。それがより一層エッセイ感を引き立たせます。
書き込みの細かさ、コマの多さ、そしてこのモノローグのおかげで、一話のページ数が少なくても、読むのになかなか時間がかかります。冗長と言うのではなく、読み応えがあるということです。

内容は、大学の美術学科に通う主人公・辰木桂(♀)を中心とした人物の群像劇とでも言いましょうか。家族、大学の友達、サークルやゼミの先輩後輩、東京の旧友、憧れの絵描きさん。十人十色の生い立ち、暮らし、性癖嗜好をもつ人たちの中で、主人公は様々なことに出会い、驚き、怒り、笑い、悲しみ、感動して、日々を過ごしていくのです。

群像劇の言葉どおり、登場人物は膨大な数に昇ります。各巻ごとに新キャラが十名近く出るので(最後までペースはほとんど衰えず)、読んでいてキャラの把握が大変でした。絵柄がシンプルな分だけ、そこは一つの難点だといえるでしょうか。ま、それは私が人の顔の判別が苦手なだけという話もありますが。

登場人物の中には、車椅子の生活で、もう何年も生きられないことが解っている絵描きや、同性愛の喫茶店のマスター(♂)という、ともすると重苦しくなりがちな設定のキャラがいますが、作者は彼らをとても自然に描きます。キャラが自然に生きている、と言いましょうか、キャラ自身がその設定に則り素直に生きているように見えるのです。勿論、日常生活の中でのマイノリティを彼らは自覚しているので、その障害について思うところはもっています。それでも、それをひっくるめて(少なくとも表面上では)ちゃんと生きている様が描かれているのです。創作の人物なのだから、理想の像を描くことくらいできるだろうと思われるかもしれませんが、その像に節度を持たせることは、想像以上に難しいことです。

この作品は、本当に日常のことしか描きません。摩訶不思議なことは別にないです。でも、そこに人間模様の機微が描き出されているので、のんびりほっこりしながら読み進められるのです。
人間模様を描いていても、そのテンポが緩やかで、淡々としているので、叙情的ではあっても、感傷的(あるいは感情的)ではありません。春の空気を含んで静かに流れる風のような雰囲気です。かすかにそよいでいることを感じ取れるくらいの静けさと言いますか。

噛めば噛むほど味が出る、長く付き合える素晴らしい作品だと思います。
読んでいると、一人暮らしをしたくなりますよ。特に神戸で。








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