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漫画の話です。

命を吹き込まれたマシンは走る!走る!!走る!!! 『D-LIVE』の話

普段は冴えない高校生の斑鳩悟は、学校でも級友になめられっぱなし。だけどその実、世界的な人材派遣会社・ASEに所属する彼は、一度依頼が舞い込めばあらゆるマシンを乗りこなし仕事を完遂する、スーパーマルチドライバーだった。どんなにうすぼんやりした顔をしていても、ハンドルさえ握れば目が輝きだす。
「今、お前に生命を吹き込んでやる!」

Dーlive!! 1 (少年サンデーコミックススペシャル)

Dーlive!! 1 (少年サンデーコミックススペシャル)

ということで、皆川亮二先生『D-LIVE』のレビューです。
傍目には普通の人間が、その裏でとんでもない能力を持っている、というのは『スプリガン』や『ARMS』など、他の皆川作品でもおなじみの構図ですが、本作では主人公のうすぼんやりっぷりが強調されています。天気予報を見ないで傘もなく雨に降られる、体育のバスケではボールを抱えたまま普通に歩く、「2億円あったらどうするか」という問いに「牛丼食うのに一万円札を出す」と答えるなどなど、時折見せる運動神経やサバイバル技術などで周囲から一目置かれていた御神苗優(『スプリガン』)や高槻涼(『ARMS』)とはずいぶん扱いに差があります。でも、そういう普段があるからこそ、いざ活躍の場が来た時に輝くわけで。
悟が乗りこなすのは車、バイクと言った日常的な乗り物だけでなく、砂漠用カミオン、ジェットスキー、電車、戦闘機、ショベルカー、潜水艇、戦車、豪華客船、エンジン付きスティックボードなどなど。原動機さえついていれば、初めて触ったものであろうとあらゆるマシンに即座に対応でき、ハンドルを握れば心の中で吠えるのです。「今、お前に生命を吹き込んでやる!」と。
活躍するのは斑鳩だけではありません。彼の所属するASEは世界的な人材派遣会社。軍人からベビーシッターまで、一流の人材を依頼に応じて派遣しています。メカニックの清水初音、潜入工作員のクレーバー・オウル、格闘技と爆弾処理の達人、ジェームズ・波戸、地質学者の烏丸理香、生物学・植物学の権威である亜取アキラなど、依頼に応じて彼/彼女は斑鳩とコンビを組み、難事件を解決していくのです。
こんな作品設定ですから、派手なアクションと様々な分野の薀蓄は他の皆川作品と同様。斑鳩悟の、少年漫画の主人公らしい真っ直ぐな性根も同様。基本的には数話で一まとまりの構成になっていますが、ほとんどの話がハッピーエンドで締められています。ベタと言えばベタな展開なんですが、人間が限界に挑戦する姿についついじんときてしまうのはしょうがないことなのですよ。5巻の鈴鹿8耐エピソードなんか、いつ読んでも涙ぐみます。
短編の各エピソードも、国際的に暗躍するロシアンマフィア「キマイラ」という横糸でつながっていて、彼らの策にASEが陥れられたり、悟の師である元ASEエージェントのマルチドライバー・百舌がASEを抜けたりと、終盤に向けて少しずつ状況は緊迫していきます。1冊にきりよく数個のエピソードが収録されているので、ちょっと1冊と本棚から出しやすいのですが、ついずるずると続刊に手が伸びてしまいます。のんびりしたエピソードもあり、銃弾と爆炎が飛び交うエピソードもあり、話の緩急が上手くついているのですよ。
スプリガン』よりは絵が今風で見やすく、『ARMS』ほど巻数が多くなく、単行本内で各エピソードがまとまっていて、完結もしているので、皆川先生の入門編としてはいい作品かなと思います。


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