本作『深淵のテレパス』は、いわばホラーとミステリのポップなマリアージュ。特に主人公ら視点の際の文章の軽妙な語り口と、それとは裏腹の、ホラー部分の嫌なものが忍び寄ってくる恐ろしさ。そして、ストーリーの中でさりげなく登場している小物や設定が終盤になって途端に意味を持って立ち上がってくる謎解き要素の快感。それらが絶妙に混ざり合ったエンターテイメント作品です。
物語は、怪現象の被害者となる高山カレンが、会社の後輩に誘われて大学で行われた怪談イベントに参加するところから始まります。あまり変わり映えしない怪談に、彼女だけでなく他の参加者も飽きだす中、桐山楓という学生が語った、怪談というにはだいぶ風変わりな話。起承転結があるわけでもなく、具体的な恐怖体験が描写されるわけでもなく、私があなたになんだか不気味な話を淡々と語りかけるというスタイルで、それがなぜか、カレンの目をじっと見ながら語られました。ここでちょっと脱線しますけど、この桐山楓の怪談とも言えない怪談の語りが実にいい塩梅。意味が通るような通らないような、でもなんか嫌な感じだけはひしひしと伝わってくる文章が秀逸で、これを読んだときの気味悪さは、この本を読み進めようという決意を固めてくれます。
さて脱線修正。
そしてその日以降、カレンの身の回りで起きる不可思議な現象。濡れた何かが落ちる音がする、どぶのような異臭がする、足跡の形で床が濡れている……。初めは気のせいか何かだったと思っていた彼女も、現象が頻繁になるにつれ、そんなことは言っていられなくなりました。
思い返せば、怪現象が起きるのは彼女のマンションの暗いところでばかり。明かるいところで変なことは起こらない。それに気づいた彼女は、リビングから寝室からキッチンから、果てには靴箱にライトスタンドをつっこんで、あらゆるところを光で満たそうとするのですが、はたと気づくのです。今のこの状況は、怪談で桐山楓が語った内容とあまりにも符合していると。
いよいよエスカレートする怪現象に、藁にもすがる思いで彼女が頼ったのが、「あしや超常現象調査」を名乗る、芦谷晴子と越野草太の二人組。YouTubeで同名のチャンネルを運営する二人は、実際に何かおかしな現象が起こっているのならば、その原因を突き止めて、あるいは突き止められずとも現象が起こらないようにしようという、科学的な調査と現実的な対処を目的として、広くオカルトの相談に乗っています。
カレンから調査を依頼された芦谷らは快諾、すぐに彼女のマンションに行き、怪現象の調査をするのですが……と話は進んでいきます。
調査が進むにつれ、カレン以外にも、桐山の怪談をきいて怪現象に見舞われていた人間がいることが発覚、そしてその人たちは皆、一か月ほどで失踪してしまっているのです。不穏なタイムリミットを突然切られてしまった芦谷らは焦ります。行方が杳として知れない桐山楓を探せば、この現象は止まるのか。それとも彼女とは無関係に、別の何かが被害者たちを襲っていたのか。探偵やエスパーという癖のある協力者も募って、彼女らは謎を追っていきます。
迫りくる怪現象の恐怖だけでなく、なぜそれが起こるのかという謎解きが合わさり、その両者がページをめくる手を止めてくれないのです。
ホラー面をもう少し掘り下げれば、現に起きている不可解な現象は、理性的な人間の目や科学的調査をとおして描かれることで、乾いた空気を持ちながら、それゆえに「なぜそんなことが?」という当然の気味悪さを喚起し、理由があったとしても理屈が合わない嫌な感じをさせてくれます。
また、暗闇の中でだけ起こる怪現象という視覚的想像だけでなく、濡れた何かが落ちる音や、どぶのような臭いといった聴覚や嗅覚にも訴えかける表現が使われ、読み手の恐怖を重層的にかきたてます。ホラー部分以外でも、空間的な狭さや息苦しさなど、読者の体感全てに訴えかけてくるような感覚が随所にあり、没入感を生んでいるのです。
ミステリ面を言えば、各登場人物や小物や設定などが、ストーリーが進んだある瞬間にかちりとはまりこみ、物語の展開をブーストします。
あの人は実はああだったのか。あの品物はそういうことだったのか。表から見ていたものの裏側が見えたことで物語の流れが変わったり、なんでもなく登場したものに突如重要な意味が宿ったり。
巧みに配置された伏線が、あれはそういうことだったのかと気持ちよく膝を打たせてくれるのです。
そしてその二つが絶妙に混ざり合い、軽妙に快調に語られるスピーディーな展開。タイムリミットが切られたことで生まれる切迫感。特に後半に入ってからの一気呵成に読ませる力はたまりません。ホラーがあまり得意でない方でも、ぐいぐい引き込まれてしまうでしょう。
単行本で約250pと比較的お手軽なボリュームなので、ライトなホラー入門としてもおすすめ。
そして、読み終わったらぜひタイトルをもう一度見直してください。ははーんなるほどね、とニヤリとできるでしょう。
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