今年の年始の目標に、ダイエットもかねて「雑なカロリーをとらない」を掲げまして、手始めに晩酌の回数を、週に2,3回だったのを1回に減らしました。
私の晩酌は基本、TAKARAの100円の缶チューハイでつまみもスナック菓子と、いかにも雑なカロリー。その回数を減らして摂取カロリーを削減しつつ、浮いたお金で雑じゃないカロリーをとるべく、クラフトビールを飲んでみることにしました。前々から興味はありつつも、お店で飲むと普通のビールよりお高くなるので敬遠してしまっていたのですが、家で週一回飲むのならささやかな贅沢ってことでいいだろうと。
今日時点でかれこれ5種類飲んでいるのですが、味わいが普段飲んでいるアサヒやサントリーのビールとだいぶ違います。普段口にするそれらのビールは、ラガーというカテゴリー*1の中のピルスナーという種類(スタイル)。キリっとしてのど越し爽やか、夏場にキンキンに冷やして飲むと最高なやつですが、そうではないスタイルのビールもたくさんあるのです。
飲んだやつで言うと、「雷電 閂」(エチゴビール(株))と「LUCKY DOG」(黄桜(株))が、ホップが効いて香りの強いIPA(India Pale Ale)。
「LUCKY CAT」(黄桜(株))が、苦み少なく華やかな香りのホワイトエール。
「SORACHI1984」(サッポロビール(株))が、ラガーにも似た爽快感とエールの華やかさを持つゴールデンエール。
「BAEREN BEER/THE DAY」(ベアレン醸造所)が、赤い色が特徴の甘みのあるレッドラガー。
もちろん、同じIPAの雷電とLUCKY DOGでも味わいが違うので、いろいろ楽しめます。
さて、ここからが本題なんですが、クラフトビールを飲み比べてみるのはいいものの、その味わいが多岐に広がっているため、なかなか特徴をつかまえづらいのです。
いや、なにもわからないんじゃないんですよ。これは飲み口が甘いなとか、香りが華やかだなとか、苦みが強いけどすぐに引くなとか、言えるは言えるんですけど、どうにもふわっとしてしまう。
そんなことを思っていたところに、クラフトビールに興味が出たこともあって買ったこの本。
「二人はいつもビールと料理 どうやって合わせゆう?」
「「なんとなく」」
「うーん野性」
「じゃあいつもの状況を再現して それを言語化してみようよ」
(2巻 p10)
言語化。「なんとなく」でやっていたペアリングに、きちんと言葉を与えてみようというのです。
普段やらないことに困惑していた主人公の一人、写真家の鉄雄ですが、なにはともあれと「瑠璃」(コエドブルワリー)を飲むと、まず出てきた言葉が「お! うま」。野生の感想ですね。ただ、それじゃあ話が進まないので、七菜から言語化してみろとせっつかれて、
えーと 色はクリアな金色 ホップの香りが瑞々しい
爽やかな苦みと後味の軽やかさ 個性派揃いのクラフトビールの中でも飲みやすいと思う
特に大手ビールに飲みなれた人には
(2巻 p12)
自分の感じた印象にきちんと言葉を与えています。
七菜から言われてやった言語化ですが、これってとても意味のあることだと思うんですよ。
人間て不思議なもので、自分の感覚や感情に言葉を与えないと、記憶の引き出しに放り込んでいるうちに、他の似たようなものとごっちゃになっちゃうものです。ある異なる体験から異なる印象を持っても、その印象を表す言葉がおなじ「すげえ」や「パねえ」だと、「すげえ体験」「パねえ体験」でくくってしまう。その時感じた面白さや驚き、悲しさや怒りなど、微妙に異なるグラデーションがあるはずのものが、「すげえ」「パねえ」で塗りつぶされてしまう。
そうしないためには、どこがどう面白かったか、他のどんなものと似ていたか、通じるところがあるか、それを感じとってどのようなことを考えたか、そんなことに、できる限りの言葉を与える必要があるのです。
与える言葉は、特殊な語彙である必要はありません。凡百の言葉でいいのです。大事なのは、その言葉が自分の感じたものにフィットしているか、それだけでうまくフィットしなかったら他の言葉も組み合わせてフィットさせられるかです。
こうすることで、自分の得た体験が、自分の中で、他と区別可能な特別の体験となるのです。
実際、ある程度言葉を与えて区別しないと、本当に難しいんですよね、味覚の差別化って。
また、そうすることで、他にもメリットがあります。
瑠璃の言語化をした鉄雄は、飲み屋の主人にして最後の主人公・隆一から、そのビールにはどのおばんざいが合うと思うと問われ、蒸し鶏の梅肉大葉和えを選ぶのですが、その理由はと重ねて問われると、こう答えました。
ホップってある種の薬味やん? 大葉も梅肉も薬味やし
あと『瑠璃』は香りも味も爽やかやし この中なら蒸し鶏かなと
(2巻 p14)
鉄雄は瑠璃の特徴としてホップの香りやさわやかさを挙げていましたが、それを意識したからこそ、合いそうな蒸し鶏を選んだし。言葉にできたからこそそれを他人とも共有できました。
言葉は自分一人で使うものでなく、同じ言語を使う人と共有できるものです。感情や感覚、体験は、究極的に個人にしか属せないものですが、それを言葉にすることで、他者と共有するチャンスが生まれます。感覚などをまったく同じように共有することは原理的に不可能ですが、それでも言葉にすれば、他者もそれを理解するよすがになるのです。
この回では、他の二人もそれぞれにビールの味わいの言語化を行い、自分の思う今日のベストのペアリングを出しました。飲み屋の店主である隆一は、お店で紹介できるようにと試験的に二人をペアリングに誘ったのですが、七菜の提案で意識的に言語化したことで、勧めたペアリングをお客さんに説明するときにも、とても便利になるのです。
また、この回では鉄雄が撮った写真のパネルが登場するのですが、隆一はそれを欲しがりました。料理とは関係のないビーチの写真でしたので、なんでそれがいいのかと鉄雄が聞くと
ん~~ なんちゅうかこの写真
ナマぽくてえい
こないだの取材ンとき思ったがって
お客さんはうまい!! ちゅうナマの衝動を求めてるんやなって
(2巻 p27)
これもまた、自分の感覚の言語化です。味覚ではなく、視覚から得た印象の言語化。
鉄雄の写真を見て、美しいとも、独特とも、感動したとも表現できますが、そのようななんにでも使えそうな表現ではなく、「ナマぽくて」というのは、隆一がこの写真にはこの言葉がふさわしいと思い与えた言葉。自分が出す料理をお客さんが美味しいと思った瞬間を「ナマの衝動」と表現し、とてもよいものと捉えている彼は、鉄雄の写真にも同じものを感じました。その言葉を与えたことで、鉄雄の写真に対する評価と、お客さんが美味しいものを食べた瞬間の評価を、同じ言葉で表せるものとして結び付けることができたのです。感覚に貼り付けた「ナマ」というラベルが、自分の異なる感覚どうしにバイパスをつなげたのです。
また、同時にこの言語化は、隆一は「この写真を『ナマっぽくていい』と評価する人間」という、彼自身のラベリングにもなります。言葉遣いは、その人自身を推し量る目安にもなりますから、通り一遍ではない言葉で評価をする対象は、その人にとって、特別なものだと言えるでしょう。
味を言葉で表すのは難しいですけど、うまく似つかわしい言葉を見つけられるとちょっとうれしいんですよね。
まだしばらくはクラフトビールのマイブームは続きそうですから、できる限り言葉を考えて、楽しんでいけたらいいなと思っています。
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