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漫画の話です。

繰り返す1日の中で世界を救えるか 『リピートアフターミー』の話

趣味は人助け。目標は「世界一優しい人間」としてギネスに登録されること。そんな女子高生・三好善美は今日も今日とて善行に励んでいた。そんなある日の夜、たまたま出くわしたコンビニ強盗を止めて善行ポイントをまた一つ、と思ったけど、見事に失敗して目の前に迫る強盗の包丁。死を覚悟した善美だがなんと、昼間に善いことをしてあげていた女の子=神様がお礼にと助けてくれた。1日分の記憶を持ったままその日の朝へと時間を戻される善美。これでバッチリ、記憶があるから善行も効率よくできるね、などと浮かれていたのも束の間、強盗を止めるために策をめぐらしたにもかかわらず、結果起きたのは別の殺人事件。おおざっぱな神様のせいで(おかげで?)、同じ1日はあと10回は繰り返される。果たして善美は悲劇を止められるのか。けれど事態は混迷を深める一途で……

リピートアフターミー(1) (ブレイドコミックス)

リピートアフターミー(1) (ブレイドコミックス)

ということで、ヤマモトマナブ先生『リピートアフターミー』のレビューです。タイムリープものにサスペンスとコミカルな絵柄のギャグをぶちこんでいるなんとも説明しづらい作品で、あらすじを書くのにもひどく苦労をしたのですが、その分魅力はぎゅんぎゅんに光ってます。
「やらない善よりやる偽善」を公言。善いことをしてあげた相手からはサインをもらって手帳に書き留め、目指せ10万善。善行を積むためなら周りの迷惑も顧みない。そんな主人公・善美。なかば出落ちの設定のくせに、そんな彼女の性格を軸にして、物語は転がっていきます。
日付も変わる直前、バイト先のコンビニで強盗の被害に遭うも、前述のように昼間に積んだ善行のおかげで辛くも虎口を逃れる善美。そして、神様に、時間を戻して助けてくれるのなら目の前のこの強盗・九條巡也も一緒に記憶を残しておいてあげてほしい、と言います。どうやら彼は突発的に人を殺してしまったために自棄になってコンビニ強盗を企てたというのだから、その記憶を持ったまま時間が戻れば九條も、コンビニ強盗を、そもそも殺人なんかはしないだろう、と。そうすれば自分は、殺人と強盗を未然に防いだステキ美少女になれる、と。
「時間を歪めると修復にも少々手間がかかる」ので「10回ほど今日を過ごしてもらう」と不穏なことを神様に言われながらも、その言葉通りに記憶を持ったままその日の朝に戻る善美。テレビで見る連続殺人犯のニュースも、通学途中で起こる出来事も、確かに記憶にある通り。こりゃあ善行も効率よくできるなうはうはだ、などと考えていたのも日付が変わる直前まで。幸い九條は殺人をしなかったし、強盗にも来なかったものの、かわりに彼女の周りで別の人間が殺された。それも二人。おりしも今朝のニュースで騒がれていた「通行止め」とあだ名されている連続殺人犯に関係のありそうな殺人だった。
繰り返す1日。殺人を防ごうと東奔西走する善美と九條。それを嘲笑うかのように広がっていく事件の輪……


何と言いますかね、すごく漫画らしい漫画なんですよ、いい意味で。基本アッパーな登場人物のギャグテンションと、作中で発生するフィクション状況への対応の仕方と、サスペンス要素に対する対応の仕方と。それらが実に絶妙なバランスで成り立っています。タイムリープというどう言い繕ってもどっかしらでぼろが出ざるを得ないようなギミックも、キャラクターのギャグ描写をすっと挟むことで、とても自然にいなしており、その上でなお、事件は混迷の一途をたどっていき、緊張感は失われていないのです。
同じ一日を何度も繰り返すという設定の都合上、登場人物の人数にも制限がありそうですが、善美らの行動によって出来事が分岐し、会うべき人に会わなかったり、逆に会わなかった人に会うようになったり、あるいは偶然が重なって善美らが陥っている状況を察する人間も出てきたり。作品が進むごとに少しずつ世界が広がり、同時に事態もカオスになっていくのに、うまく練りこんでいるなと唸ることしきりです。
全68pという大ボリュームの第1話が試し読みできますので、まずはそちらをどうぞ。
リピートアフターミー/ヤマモトマナブ
さあ、続きが気になった君は本屋へ走るんだ!


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