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漫画の話です。

マイルドから最大級のざわざわまで『大好きが虫はタダシくんの』の話

天才的な運動能力とド天然な性格を併せ持つ女子高生・水野燕と、彼女が大好きな後輩・朝倉たつみの日常を描く連作短編『ドラゴンスワロウ』。
素手でコンクリートを破壊できる馬鹿力女子高生・結城凛が、世界征服を目指す虫人間に立ち向かう、デビュー作である『破壊症候群』。
作者のホームページ上で公開された表題作である『大好きが虫はタダシくんの』。
他数作の短編が収録された、作者初の短編集。

ということで、阿部共実先生の短編集『大好きが虫はタダシくんの』のレビューです。
阿部先生と言えば、初単行本『空が灰色だから』でざわざわ感あふれる強烈なイメージを残してくれましたが、本作に収録されている作品は基本的にだいぶマイルドです。
冒頭のカラーページの掌編二作は、モノクロームを基調とする絵なのですが、ポイントとなる個所に鮮烈なカラーを入れることでビビッドなポップさが生まれ、ピリリとスパイスの効いた作品となっています。
『ドラゴンスワロウ』は、燕先輩LOVEな朝倉たつみがハイテンションに絡んでいくも燕先輩はあさっての方向へ華麗にスルー、というのが基本スタンス。でも、『空が灰色だから』で見せつけられた言語センスは変わらず、回りくどさと紙一重の急角度なツッコミの言い回しが素敵。「マダガスカルの生物が自然発生するこの部屋の状況に何か感じることはないんですか!?」「えっ? 真冬にゴキブリがでるなんて死ぬほど汚いと思う…」「死ぬどころか新たな生命が息吹くほど汚いってことですよおおおおおおおおおおおお」とかすごい好き。というか燕先輩可愛い。
『破壊症候群』は「人並み外れた」では済まない力と、でもそれを自由に使いたいという衝動を持つ女子高生の葛藤とカタルシス。「馬鹿力」という言葉のもついい意味でのバカっぽさが溢れています。
でもね、マイルドと言えそうなのはここらへんくらいまでかなーと思うのです。いや、『ドラゴンスワロウ』や『破壊症候群』でそのケがなかったわけではないんですよ。いわゆる蓮コラ的な気持ち悪さが、かわいらしさの中にもちょろちょろと仄見えていて。
その次の『あつい冬』は、冒頭は普通かと思わせといて3ページ目でいきなりアレな方向に行き始めてそのままブン投げて終わるし、描きおろしの『デタジル人間カラメ』(誤字じゃないです)はわずか7ページの作品でなんでこんなに脳みそをうんにょりさせる方向に行くのかって感じだし、最後の表題作『大好きが虫はタダシくんの』はもう無理。ギブアップ。タップタップ。私はこれ読めないです、キツすぎて。web上で読んだことがあるのですが、『空が灰色だから』に収録されている作品を含めても一番きっつい。心にくる。最大級のざわざわ。
大好きが虫はタダシくんの
今でもweb上で読めますが、未読の方はちょっと読んどいて。その上で、『ドラゴンスワロウ』なんかはこれとは比べ物にならないほどマイルドだから安心して買ってみるといいと思うの。
p.s. 同時発売の『空が灰色だから』4巻では、第40話「マシンガン娘のゆううつうつうつうつうつうつうつうつうつうつうつうつうつ」がとってもきっついと思います。


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