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漫画の話です。

37歳無職と22歳フリーターのほっこり凸凹夫婦「そう言やのカナ」の話

不況の最中にライン工をクビになった倉橋惣一(37)とフリーターの倉橋カナ(22)。なにをどうしたのか結婚した二人。失業保険を受給しながら、カナのバイト代で生活をしている惣一は、自分の不甲斐なさに苦悩するも、明るく肝の座ったカナは、けらけら笑い飛ばす。凸凹しているようで仲良く暮らしている二人の生活の中で、年長者の惣一は思いだしたようにカナにいろいろな話をするのです。「そう言やの、カナ……」


ということで、野村宗弘先生の新作『そう言やのカナ』のレビューです。
決して裕福ではなく、色々と苦労を抱えながらもそれなりに楽しくやっている夫婦を描いた作品。そういう意味では、『とろける鉄工所』のペーさん夫婦にも通じるところがあります。あちらは鉄工所の話がメインですが、こちらは夫婦間の話が完全にメインになっています。
37歳の元ライン工・倉橋惣一。彼と22歳のカナが出会ったエピソードはまだ描かれていません。わかっているのは、カナが出会って一ヶ月で惣一に何も言わず入籍届を役所から貰ってきたことくらい。うん、非常に積極的で行動が早いことはよくわかった。そんな彼女だから、惣一がなかなか職を見つけられず悩んでいるのを見て、バイトを辞めて正職を探すことを決意します。決めたその日にバイトを辞めて、数日と経たない内に職安にでかけ、求人を見つけた翌日にはもう面接に行く。そして見事採用。とんとん拍子に転がっていきます。
が、カナにとってはとんとん拍子でも、惣一にとってはあれよあれよ。自分があたふたと気をもんでいる間に颯爽と行動するカナの姿を見せつけられて、いっそう苦悩します。カナが晴れて弁当屋の正社員になったので、惣一は主夫業に専念。男として、年上として忸怩たる思いがあるものの、家事の才能がある惣一は実に手際よく主夫をこなす。そして、ついに覚悟を決めた惣一は、もはや主夫を通り越してお母さんと呼べるほどの存在にまで昇華するのです。
無口で強面の惣一ですが、暮らしの中でふと思いついたことを「そう言やの」とカナに話しかけます。それが面白いこともあるし、なんだか愚にもつかないこともある。けど、日々の会話なんてそんなもの。そんな会話を他愛なく繰り返せることこそ、そこが日常である証。
ドタバタしながらも、なんやかやと楽しく暮らす夫婦。不満がありながらも、ケンカをしながらも上手くやってる夫婦。こういう「それなり」の楽しさというのが、夫婦や家族などの日常には必要なんだなと思うですよ。なんだかんだがなんだかんだと続く、でこぼこした散歩道。そんなもの楽しく思える暮らしってのはいいなあと、野村先生の作品を読むと感じるのです。


で、漫画ゴラクで連載されているこの作品と同時収録されているのが、トムス・エンタテインメントのケータイサイト・アニ読メで連載されていた『十ヶ所くらいの穴』です。もともとケータイコミックとして発表された作品ですので、それを書籍媒体にするに当たって大幅にリライトしたそうですが、これがまた素晴らしいのですよ。
「十ヶ所くらいの穴」の意味は、焼ナスを作るとき、火を中まで通すために開ける穴のこと。来年の六月に結婚することが決まり、マリッジブルーに囚われる女性・佐藤幸子が、秋ナスを嫁は食えないのだからと今のうちに焼きナスを作っているうち、このナスのように自分に穴をあけたら、憂鬱な気持ちが抜けてすっきりするのかな、と妄想します。
このように、独身生活を終えようとする女性を叙情的に描いている作品なのですが、デフォルメの強い野村先生の画風と、あえて重みのない言葉を使うことによって、ポップな叙情性とでも表現できるものを獲得しています。悲哀があるのに俗っぽく、晴れ晴れとしていないのに楽しそう。実に玄妙な味わいをなす作品となっています。


相変わらず妙な可愛らしさのある野村先生の女キャラクターですが、カナのお母さん(40)に色気があってビックリしました。ありゃあいい熟女やで……




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