どうもご無沙汰。山田です。
約二週間ぶりの更新は、オノ・ナツメ先生の「リストランテ・パラディーゾ」のレビューです。うちのブログじゃわりと珍しい、普通のレビュー。
- 作者: オノ・ナツメ
- 出版社/メーカー: 太田出版
- 発売日: 2006/05/18
- メディア: コミック
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いざやってきたお店のスタッフはなぜか、眼鏡をかけた初老の男性ばかり。なんとそれは、オーナーの妻である母の趣味なんだとか。けれど、そんな紳士達を目当てに通うお客さんも多いのだとか。
自分が娘であることを隠そうとする母に怒り、呆れながらも、彼女もお店に足繁く通うようになって……
実は、初めて読んだオノ・ナツメ作品でした。名前は前々から知っていたけど、なんとなく食指が動かなくて。
で、読み終わった第一印象。
他の作品がどうかはわからないけれど、この作品を読んで、小さな木片がぱらぱらと零れ落ちるような、そんな印象を受けました。軽くて、静かで、乾いていて、でもほのかに温かくて、少し枯れた匂いがするような、そんな感じです。
派手さがあるわけじゃないし、勢いがあるわけでもないけど、読ませますね。
主人公こそ21歳の若い女の子ですが、彼女が思いを寄せるのが、優しく、真面目で、気遣いのできる初老のバツイチ紳士、カメリエーレ長のクラウディオ。ニコレッタに押し倒されても、声を荒げることなく「困ります…」と顔を背けるほどの、それって落ち着いてるとか紳士とかそういう問題なのかと思えるナイスミドルです。いや、もうシルバーか。
「いい男と出会って恋をしたい」と思うニコレッタと、数年前に別れた妻のことをまだ引きずっていそうなクラウディオ。クラウディオの優しさは、ニコレッタを惹きつけもするし、同時に「彼は優しいけど、本当は私のことを迷惑に思っているんじゃないだろうか」と不安にもする。三倍近くもありそうな歳の差と、元妻に対する彼の態度が、恋を求めるニコレッタを臆病にさせるのです。
そのニコレッタの心のたゆたいは、母への葛藤もないまぜになっていきます。我が子を遠くにやってでも成就させたい恋愛。置いていかれた当人としては、ひたすら腹立たしいものでしたが、いざ自分が恋愛の渦中にあると、そのバイタリティが羨ましくも思えるのです。
恋に生きる女ね
この人見てると うらやましくて
凹む(p61)
仕事が充実していて、恋愛も充実していて、理想の母親像では決してないけど、理想の女性像の一つではある、ニコレッタの母。でも、そんな彼女と似ていると、皆にニコレッタは言われるのでした。それは嬉しいような、くすぐったいような。
ローマまでは母親へ憤懣をぶちまけるために来たけれど、そこ出会った素敵な老紳士たち、オーナー、そして、母親自身の人生や考え方に触れて、当初の憤懣は少しずつ形を変えていくのでした。
果たして、彼女の気持ちの行方は……?
登場人物たちの人生がパイ生地の様に積み重ねられ、さくりと静かな音をたてて、口の中で甘く、少しだけ苦く広がる、そんな作品です。寒い夜にコーヒーでも飲みながら読んではどうでしょうか。
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