高校球児 ザワさん 1 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)
- 作者: 三島衛里子
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2009/04/30
- メディア: コミック
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フェチすぎる野球マンガ『ザワさん』に夢中
確かに可愛いですよね、彼女。日常の中で突然意識される「女性」性というのは、同じ日常の中にいる男の心をズギュウゥゥンと打ち抜くものですし、それが青春真っ盛りの高校生ならなおさらです。水泳の授業で見せたパンダ焼けの白い太ももとか、腋の処理の甘さとか、ユニフォームの下の胸に食い込む野球バッグの紐とか、まあときめきますよね。
とかく、そのような部分が細かく描かれていることで「ザワさん」はフェチ漫画だと言われているのでしょうが、「ザワさん」のフェチっぷりはもっと根本的なところにあると私は思います。*1
どういうことかといえばこのザワさんこと都澤理沙、決して読み手と同一化することなく、読み手にとって常に対象/客体として存在しているのです。彼女を見る読み手の視線は、多くの場合、具体的な登場人物の視線と重なっており、そこから離れた「神」の視点、あるいはザワさん自身の視点が全くといっていいほど存在していません。別の言い方をすれば、彼女の「心の声」は作中に書かれないんです。
読み手が彼女の内心を知る術は、彼女と同じ水準（作中世界）に属する登場人物が知りうる範疇に留まっており、超越的な立場からそれを知ることはできないのです。その意味で、彼女は読み手にとって決して主体となり得ない（＝同一化し得ない）対象/客体であると言えます。
（1巻 ｐ15）
（1巻 ｐ29）
（1巻 ｐ79）
（1巻 ｐ99）
こんな風に、ザワさんのパーツ/行為/状況はふとしたときに同級生男子などの「性的」な視線に晒され、その視線に読み手は同調する。対象である彼女は、見られるべくして見られているんです。
つまるところ、言い方は悪いですけどザワさんは、観察対象なんですよ。彼女はただ描かれているのではなく、誰かに見られるために描かれているんです。主体として読み手と共感することはなく、客体として読み手の視線にさらされるしかない。見る/見られるの非対称な関係性に彼女は異議を唱えることができず、一方的に客体のポジションを押し付けられる。それが作中のザワさんの描かれ方です。
で、その在り方って、フェチが対象となっている人間（仮に「被フェチ者」と呼ぶ）の人格を無視しているという点で同じだと思うんです。胸フェチやめがねフェチ、虫に刺されたところフェチにとって重要なのは胸の形状、伊達眼鏡かどうか、虫刺されの有無などであって、被フェチ者のほかの部分は無視されます。*2被フェチ者がそれ以外の部位をどれだけアピールしても、フェチ持ちには関係なく、ただそこに対象としてのパーツ/行為/状況があればいい。見る自分と見られるそれらがあればいい。
この見る主体と見られる客体の没交渉は、ひたすらにザワさんを対象とし続けている登場人物（＝読み手）の視線と同一のものなんじゃないでしょうか。
言ってみればザワさんは、フェチの対象となるなにがしかを有する者として描かれているではなく、なにがしかのフェチを見出させるための者として描かれているのかもしれません。彼女そのものがいかようにもパーツ/行為/状況を取り出せるフェチのかたまり、つまり純粋な「客体」なのだと。
1巻の帯には「ちょこっとフェチ＆なーんてことない日常素描」なんて描いてありますが、ザワさんに注がれているフェチ的な視線はもっと根の深いものだと思いますよ。だって彼女は、視線に晒される存在としてのみ描かれているんですもの。この徹底ぷりはかなり異質。一冊読み終わった後に、ちょっとだけぞっとしましたわ。まあかわいいんだけど。
ちなみに私が一番かわいいと思うザワさん。
（1巻 ｐ70）
全然悪くないよ！
なお、私はまだ1巻までしか読んでいないので、2巻以降でこれをぶっくらかえす描写があってもそれはそれということで。
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