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漫画の話です。

のはなし/伊集院光

のはなし

のはなし

auのメルマガで、週3で配信していたコンテンツをまとめて出版された本。
「七文字以内でテーマを送って」とメルマガ登録者に呼びかけ、送られてきた言葉の中から伊集院がびびっときたものについて書いてます。メルマガ編集部のほうからは400字くらいでいいと言われていたのに、平気で2000字くらい。

「結婚式」や「エロ本隠し場所」、「嫌いな食べ物」などといったわりかし具体的なお題ならともかく「ミシン」、「路地裏」、「ピロリ菌」なんてのは、具体的であってもそうそう思い出があるものじゃない。「無神論」から面白にもっていくのは至難の技だろう。「血で血を洗う」なんか出くわすことも考えたこともなかなかないようなものだ。挙句の果てには「ん?」なんてテーマもある。そこからどう広げろと。
まあ編集者やらがテーマを決めるのではなく、伊集院本人がびびっときたものを選んでいるので、「血で血を洗う」や「ん?」でも脳裏に兆すものがあったのだろう。

全82話で、ばらつきはあるものの各話1500字前後でまとまっている。一話ごとの分量は少ないので、暇つぶしにぱらぱら読むには最適だと言っていい。
ただ、面白さとしては、以前出版されたみうらじゅんとの共著「D.T」のほうが面白かった。まあそれは本書がもともとメルマガ配信の文章と言うことで、黒伊集院を前面にだすわけにはいかなかったのだろう。多少なりとも下品な話も収録されているが、特にお子様の教育を害するほどではない。せいぜいR12だ。

「D.T」は対談およびコーナー本だったので、伊集院の書く文章を読むのはこれが初めてだ。勿論お昼のピクニックフェイス伊集院の書く文章という断りはあるだが。

伊集院は、被害妄想加害妄想誇大妄想の三大疾病を抱えているが、それが功を奏してと表現していいだろう、自分がしゃべっていることをしっかり自覚している。
臆病だから、何かを簡単に鵜呑みにすることは出来ないし、つまはじきにされると思ってしまうから、世間の風潮に簡単に乗れない。だから、ラジオのDJをしているときも、今自分が話していることは自分しか考えていないことかもしれない、自分しか憤慨していないことかもしれないと、内心常にびくびくしながらしゃべっている。それゆえ、この話を聞いてくれている人(自分の考えに「はあ?」という顔をしている人)にも誤解が極力生じないように、丁寧に(かつ面白く)話そうとするのだ。そういう点では、意外なことに内田樹氏の著作に通ずるところがある。

本書も、伊集院のそのような性格が発露しているものだと言える。読んでいて、読者に気を遣っていることがよくわかるのだ。だから話の敷居がとても低いが、裏を返せばその分物足りないところが増えるともいえる。
文字数制限のない普通の本ならば、平易さを旨としても、分量と論理展開でいくらでも深みのある文章にできるが、いかんせんこの文章の元の媒体はメルマガだ。原稿用紙三、四枚で万人に受けやすいものを書くことを考えれば、黒伊集院になれた人間のおなかを満たしきることは難しいだろう。

文章は、前歴も関係してかどこか落語的で、高座から語りかけられているような感触がある。
下品で笑える話の内容に隠れがちだが、その語り口はおじいさん的である気がする。varbalな文章なので、手ざわりという表現を使いづらいが、「おじいさんのチョッキ」とでも表現しようか。
厚手の生地で少しざらついてはいるが、温かく労わるようにこちらを包んでくれる。そしてどこか懐かしい。そんな文章。


最後になるが、どうやらこの本かなり売れているようだ。近所の本屋どこを探しても売り切れで、先日重が版出来されたことでようやく手に入った。これは「のはなし2」を期待せざるを得ない。








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