ポンコツ山田.com

漫画の話です。

雑記

『よふかしのうた』人と吸血鬼 夜と昼 別物のようで地続きにある世界の話

最新刊で吸血鬼vs探偵の話も一区切りの『よふかしのうた』。よふかしのうた(10) (少年サンデーコミックス)作者:コトヤマ小学館Amazon 吸血鬼とはどんな存在なのか、その中でもナズナはどんな吸血鬼なのか、というところに踏み込んだエピソードでした。 …

『転生したら第七王子だったので、気ままに魔術を極めます』と『チ。』に見る、先人が積み重ねた知への敬意の話

マガポケで連載している『転生したら第七王子だったので、気ままに魔術を極めます』。転生したら第七王子だったので、気ままに魔術を極めます(6) (マガジンポケットコミックス)作者:石沢庸介,謙虚なサークル講談社Amazon 長いんで以下『第七王子』と略し…

香りの表現と、ボキャブラリーと、言葉と感覚の結び付け方の話

先日の記事で、味覚の言語化についての話をしました。 yamada10-07.hateblo.jp その中で 与える言葉は、特殊な語彙である必要はありません。凡百の言葉でいいのです。大事なのは、その言葉が自分の感じたものにフィットしているか、それだけでうまくフィット…

クラフトビールと、『琥珀の夢で酔いましょう』と、感覚の言語化による体験の区別の話

今年の年始の目標に、ダイエットもかねて「雑なカロリーをとらない」を掲げまして、手始めに晩酌の回数を、週に2,3回だったのを1回に減らしました。 私の晩酌は基本、TAKARAの100円の缶チューハイでつまみもスナック菓子と、いかにも雑なカロリ…

対立者を敵と呼ぶ現代世界と、『チ。』に見る相容れないものと歩む世界の話

最近知った思想家で倉本圭造という方がいまして。 finders.me 同氏を知ったのはこのネット記事でなんですが、『新聞記者』を見ていない私でも、その論旨には感じ入るところ多く、同サイト掲載の執筆記事も一通り読みました。 経営コンサルタントであり経済思…

『ワンダンス』『ブルーピリオド』『メダリスト』言葉を与えられた感覚とその影響力の強さの話

『ワンダンス』。『ブルーピリオド』。『メダリスト』。 ダンス、絵画、フィギュアスケートと、どれも芸術(表現)をテーマにした、私の好きな漫画ですが、これらの作品には共通点があります。それは、感覚の言語化に強く意識的である点です。ワンダンス(6…

主人公と自分の解釈違い、あるいは主人公の嫁と「俺の嫁」の話

友人と雑談していて考えた話その2。 友人が 「基本ネタバレ絶対許さないウーマンだけど、いい感じになりそうな相手が複数いる恋愛ものだけは、先に主人公がどの男とくっつくか知ってからじゃないと読めない。私は恋愛ものを読むとき、自分ならどの男を好き…

愛したいのか知りたいのか オタクの興味の二つの方向性の話

昔からオタクってなんやねんというのはずっと考えていて、自分はオタクなのかそうでないのか、友人なんかからはオタクと思われてるだろうけど自分では別にそうは思ってなくて、それって結局はオタクってなんやねんていう、定義が定まってないからなんですよ…

『ハコヅメ 別章アンボックス』カナが警察官に求めたものと、またその先に求めたものの話

前回から少し空きましたが、あらためて『アンボックス』についての話。ひとまずのまとめとして、主役であるカナの話を。ハコヅメ~交番女子の逆襲~ 別章 アンボックス (モーニングコミックス)作者:泰三子講談社Amazon カナの始まり 物語の始まり この物語は…

『ハコヅメ 別章 アンボックス』個人を守り縛る立場の話

また『アンボックス』の話。ハコヅメ~交番女子の逆襲~ 別章 アンボックス (モーニングコミックス)作者:泰三子講談社Amazon 上司の存在のありがたさ 自分がDV事案としてかかわっていた人間が被害者となった事件。カナと同僚の益田は、世間からも同僚から…

『ハコヅメ 別章アンボックス』カナの欲した正義とマジョリティの話

7割コメディ3割シリアスくらいの按分で作品が構成されてる『ハコヅメ』。にもかかわらず、コメディ部をほとんどなくしてシリアスに極ブリしたのが『ハコヅメ 別章アンボックス』。 著者コメントでも、 『アンボックス』の題材は殺人事件で、楽しいことは何…

『チ。ー地球の運動についてー』「情報」と「知識」と「知恵」と「知性」の話

また『チ。』のお話。チ。―地球の運動について―(6) (ビッグコミックス)作者:魚豊小学館Amazon6巻から始まった第3章の重要人物ドゥラカ。早くに母を、そして一か月前に父を亡くした幼少期のドゥラカは、父の死以降、彼が亡くなった朝になると共同体の輪…

『チ。ー地球の運動についてー』シュミッツの対話、あるいは前提の共有と妥協点の模索、あるいは理性の話

昨年末に6巻が発売された『チ。』。チ。―地球の運動について―(6) (ビッグコミックス)作者:魚豊小学館Amazonオクジーとバデーニが処刑されてから25年。地動説の感動は途切れることなく、また新たな者の手に渡されました。 残されたのは、科学的な考察や…

『ブルーピリオド』熟練度の向上とクリアになる世界の解像度の話

コミックDAYSに登録して以来、電書のアフタで最新刊分くらいから追い始めた『ブルーピリオド』、思い立って無料の1話を読んだら、その日のうちに本屋へ走ってました。ブルーピリオド(1) (アフタヌーンコミックス)作者:山口つばさ講談社Amazonチョイ…

『3月のライオン』心の毒を予防する「逃げなかった」記憶の話

"Fight or Flight." 「闘争」か「逃走」か。うまい日本語訳もあったもんですね。 ブルーハーツの「やるか逃げるか」も佳曲です。 だれしもあるであろう、逃げた記憶、あるいは逃げなかった記憶。 後者の逃げなかった記憶については、『3月のライオン』序盤…

現実の科学者も見ていた美と調和と神 『チ。』と『35の名著でたどる科学史』の話

初学者に優しい自然科学の本を読むのが好きなんですが、先日読んだこの本。35の名著でたどる科学史 科学者はいかに世界を綴ったか作者:小山 慶太丸善出版Amazon早稲田大学の文系学生相手に長年、自然科学概論の教鞭をとっていた著者が、近代から現代、16世…

『好きめが』藤近小梅の描く心の距離に悩む姿の話

ここに結婚式場を建てよう(挨拶)。好きな子がめがねを忘れた 8巻通常版 (デジタル版ガンガンコミックスJOKER)作者:藤近小梅スクウェア・エニックスAmazon8巻の発売された『好きめが』こと『好きな子がめがねを忘れた』。小村君も三重ちゃんも、お互いの親…

『3月のライオン』子供姿の零とスタートラインと、生きていいと思える「居場所」の話

ようやく新刊の発売された『3月のライオン』。約1年10か月ぶりか。そうか……3月のライオン 16 (ヤングアニマルコミックス)作者:羽海野チカ白泉社Amazon前半はひなとの零のアンニャモンニャで「あー零くんいけませんそれはいけませんよーあーいけませんい…

知の美しさと過去からの集積 『チ。』と『はじめアルゴリズム』の話

5巻が発売された『チ。』。チ。―地球の運動について―(5) (ビッグコミックス)作者:魚豊小学館Amazon地動説に文字通り命を賭けた人間たちが、また命を消し、そして次の誰かへと知をつないでいく。相変わらず、残酷さと感動が同居しています。 さて、『チ。…

『ワンダンス』カボの強さと弱さ、浮かぶ宇宙と踏みしめる大地の話

高校対抗ダンスバトルの個人戦が佳境に入った『ワンダンス』。ワンダンス(6) (アフタヌーンコミックス)作者:珈琲講談社Amazonワンダ、伊折、恩ちゃん、宇千、カベ、そしてカボ。それぞれがそれぞれのニュアンスを出して踊るバトルは、ビートを見せていく…

『アオアシ』サッカーとアドリブの、言語化の先の身体化の話

着々と読み進んでいる『アオアシ』。 現時点で21巻まで行ったんですが、読んでて色々考えが広がるところはあるのですが、中でも「これこれ!」となったのは12巻。読んでて膝を打ちました。アオアシ(12) (ビッグコミックス)作者:小林有吾小学館Amazonどこ…

『アオアシ』「つながる」ことの面白さ、気持ちよさの話

サンデーうぇぶりにて6巻まで解放されたのを機に、そこまで一気に読んだサッカー漫画の『アオアシ』。アオアシ(1) (ビッグコミックス)作者:小林有吾小学館Amazon実は以前、同じ作者の『ショート・ピース』を読んで面白かったので、試しにと1巻に手をだ…

『チ。―地球の運動について―』積み重なる知の価値の話

今回も『チ。』についての話。チ。―地球の運動について―(1) (ビッグコミックス)作者:魚豊小学館Amazon前回の記事では、理論の美しさの価値の話をしました。今回はまた別の価値として、タイトルの通り、積み重なる知の価値について書こうと思います。本作…

『チ。―地球の運動についてー』理論の「美しさ」の意味と価値の話

新刊の発売された、魚豊先生の『チ。ー地球の運動についてー』。先ごろにはマンガ大賞2021の第2位も受賞している、今ノリにノっている漫画の一つだと言えるでしょう。チ。―地球の運動について―【分冊版】 1 (ビッグコミックス)作者:魚豊小学館Amazon『…

『子供はわかってあげない』あまりにも自然だったLGBT+明大の話

本年8月20日公開予定の、映画『子供はわかってあげない』。 agenai-movie.jp 子供はわかってあげない(上) (モーニングコミックス)作者:田島列島講談社Amazon本日は、主人公の一人であるもじくんのお兄さん(?)である、明大の登場する場面が公開されま…

『葬送のフリーレン』人との交わりと褒めることの意味の話

前々回、前々々回の続きにあたる、『葬送のフリーレン』の話。葬送のフリーレン(4) (少年サンデーコミックス)作者:山田鐘人,アベツカサ発売日: 2021/03/17メディア: Kindle版それらの記事で、大人/子供や、交換などについて書いてきましたが、フリーレン…

『その着せ替え人形は恋をする』自分では気づけぬ思い込み・決めつけの話

アニメ化が決定した『その着せ替え人形は恋をする』。やんややんや。その着せ替え人形は恋をする 1巻 (デジタル版ヤングガンガンコミックス)作者:福田晋一発売日: 2018/11/24メディア: Kindle版将来頭師*1になることを夢見るインドア系ボッチ・五条新菜(ご…

『葬送のフリーレン』「交換」と恩返しと連環する人のつながりの話

前回に引き続き、今回も『葬送のフリーレン』のお話。葬送のフリーレン(4) (少年サンデーコミックス)作者:山田鐘人,アベツカサ発売日: 2021/03/17メディア: Kindle版前回の記事では、同作で描かれている「理想の大人」像について書きました。 yamada10-07…

『葬送のフリーレン』「理想の大人」と大人の在り方の話

マンガ大賞2021の大賞に見事輝いた『葬送のフリーレン』。やんややんや。葬送のフリーレン(4) (少年サンデーコミックス)作者:山田鐘人,アベツカサ発売日: 2021/03/17メディア: Kindle版さて、最新刊の4巻では僧侶のザインをパーティーに加え、一行は…

『GIANT KILLING』椿が「好きにやる」ことの意味の話

最新巻が発売された『GIANT KILLING』。GIANT KILLING(57) (モーニングコミックス)作者:ツジトモ発売日: 2020/12/23メディア: Kindle版天宮杯で緒戦の徳島を破ったチームをよそに、アジアカップの敗戦から椿は塞ぎこみ続けています。 靭帯を…