俺マン2019の話

今回も参加した俺マン2019。
oreman.jp
今年の幕開けに、自分が推した作品を軽くご紹介。
「「今年自分が面白いと感じた作品を紹介する」以外、明確なレギュレーションを設けていません。」という元々のゆるいレギュレーションに、「今年発売(発表)された作品5本」という俺ギュレーションを少しだけ加えてます。
なお、紹介順は面白い順と言うわけではありませんが、『水は海に向かって流れる』は2019年の1位ということでお願いします。
水は海に向かって流れる(1) (週刊少年マガジンコミックス)
待ちに待っていた田島列島先生の新連載。『子供はわかってあげない』以来ですね。
高校進学のために、叔父のいるシェアハウスに引っ越すことになった直達くん。そこにいた唯一の女性、榊さんにドキドキしている直達くんだけど、実は彼女は、かつて彼の父とW不倫していた女性の娘だった。そもそも父の不倫の事実すら知らなかった直達くんに、ふとした拍子で彼があの男の息子だと知ってしまった榊さん。一つ屋根の下の生活はどうなる……?
という高校生男子のまっすぐな迷走と、26歳OLの複雑な内心が、肩の力の抜けたスラップスティックで描かれています。
直達くんが、おそらく人生で初めて直面したであろうこんがらがった人間関係。どうにかしようとしたい他人の思惑。でも、その発端となった事件はすでに終わっていて、後に残されているのは、ふさがったんだかふさがっていないんだかよくわからない心の傷だけ。それは母にも、父にも、叔父にも、榊さんにもある。知らぬは当時子供だった自分ばかりなり。
人には過去があって、傷があって、それが治るものだったり治らないものだったりあるいは治すことを拒否するものだったり、でもそれは傷から目を逸らしているだけなのかもしれなかったり。
他人の心の傷は、誰かが治せるものじゃない。後から自分で見返して、もう治ったかな?とそっと触れてみるしかありません。それがわからない直達くんは無力感にさいなまれますが、その無力感に溺れないで動こうとする姿は、輝いて見えます。
とまあ、だいぶシリアスそうなストーリーなのに、作中の空気が明るい。変な言い方ですが、健やかな空気です。なんだろう、苦悩はあっても悪意はないからかな。みんな、がんばろうとしてるけどままならない。ままならないけどがんばろうとしている。そういう感じなのかしら。
現在2巻まで発売中。私も地味だけど綺麗な酔っ払い26歳OLをおんぶするような高校生活を送りたかった……
ワンダンス(1) (アフタヌーンコミックス)
吃音に悩んでいたカボこと小谷花木は、入学した高校で、一人踊る女子生徒を見る。その姿の美しさに心奪われたカボは、彼女、ワンダこと湾田光莉を追うようにして、ダンス部に入部する。しゃべらなくていい。踊ることで表現ができる。その楽しさに触れたカボは、次第にダンスにのめり込んでいく……
珈琲先生の新連載です。思わず首の後ろでアクセントをとってしまうようなダンスシーンの気持ちよさと、普段から色々考えるカボくんの内心の描写がいいですね。
フィジカルとフィーリングとはたから思われがちなダンスについて、そのコツやノり方を分析的に説明しているのが、たいそう私好みです。吃音ゆえに口数が少なく、だからこそ人の話やその場の音や空気をよく聴いているカボくんだからこそ、音楽のグルーブをよく聴いていて、派手な動きでなくてもアクセントを合わせることで魅せるダンスになっているのが、うまく設定にマッチしています。
吃音とダンスの感覚の共通点については、1巻発売時にがつっと書いてます。
『ワンダンス』吃音とリズムとダンスの話
『ワンダンス』ダンスの自由と動かされる感覚の話
カボとワンダの恋愛模様も、きゅんきゅんきちゃいますね。直截的に言葉にする描写はないけど、たしかにカボを憎からず思ってるワンダかわいい。
これを読んだせいで、今年ダンスの体験教室にでも行ってみようかな、なんて思ってます。
児玉まりあ文学集成 (torch comics)
僕こと笛田くんが通う文学部の主、児玉さん。彼女は詩のように話し、小説のように振る舞い、文学のように息をする。少なくとも、笛田君にはそう思える。生きる文学である彼女から文学を乞うために、今日も笛田君は文学に通うのです……
三島芳治先生のこちらも新連載。べたっと平面的な絵の中で紡がれる、言葉遊びと文学の話。笛田君の目に映っているものは、児玉さんの言葉で、築かれた文学の真実なのか、虚構の世界なのか。他の学生たちが平穏な学校生活を送る中、一人笛田君が、現実と虚構の中を行き来して、児玉さんの言葉に振り回される姿は、滑稽でもあり、道化でもあり、ひょっとしたらとても文学的なのかもしれません。なにしろ、言葉によって世界の見方を変えるのが、文学なのですから。
笛田君は、児玉さんの言葉を素直に受け取ります。そして、そのように世界を見ようとします。なんて理想的な文学の読者なんでしょう。
読者も、彼女の言葉に少しだけでも振り回されると、また世界の見方が変わるのかもしれません。
違国日記(1) (FEEL COMICS swing)
両親を交通事故で亡くした中学三年生の朝は、疎遠だった母方の叔母・槙生に引き取られました。槙生は、自分の姉にして朝の母だった人を好きではなかったと当の朝に公言しますが、そして同時に言います。それでも私はあなたをないがしろにはしない、と。寄る辺を失くした一匹の子犬と、一人で暮らすことを選んだはずの大人の女。二人の共同生活は二人をどう変えるのか……
キャラクターの心理を丁寧にかつビビッドに描写することに定評のあるヤマシタトモコ先生。本作では特に、人の孤独さ、わかりあえなさと、それでも一緒に生きていける人のしたたかさ、やさしさが、二人の女性を軸に描かれています。
タイトルにある違国。違う国。
人はそれぞれ、自分だけの国に住んでいます。自分だけの領土。自分だけの法律。自分だけの空気。領土の広さや法律の峻厳さ、空気の色やにおいは人それぞれですが、国同士が国境を接することはできても、同じ王を戴くことはできません。その国の王は自分だけ。他人を王とすることはできないし、他人の臣下になることもできない。一人で王様、一人で国民。それを必要以上に意識してしまっている槙生という女性と、まだそれを知らない朝という女の子。しかも相手は自分の肉親で自分の嫌いな女性の一人娘。両親を亡くしたばかりの不安定な女の子。衝突が起こらないわけがなく。
タイトルが「異国」じゃなくて「違国」なのは、「異国」にはたとえば「異国情緒」のような、遠い国、文化の異なる国、というようなニュアンスがついているからで、そうではなく、同じように思えてもそれは違う国、隣同士でも違う国、のようなニュアンスを出したかったというのが、理由の一つにある気がします。隣にいるのに違う国。一緒に住んでいるのに違う国。
時にヒヤヒヤし、時にハラハラし、時にスンと寂しくなるような二人の生活が、どのように変わっていくのか、今後も目が離せません。
BLUE GIANT SUPREME(1) (ビッグコミックススペシャル)
この作品に関しては実は、俺マン2016から4年連続で推していたんですよね(当時は無印)。いまさらなにをかいわんや。
巻を重ねても、大を取り巻く音楽の熱さは衰えるところを知らず、メンバーやオーディエンス、共演者はもちろん、イベントの主催者やプロモーター、スタジオエンジニアの心も熱くさせます。そして、その熱の中心で、誰よりも前を、上を向いている大。今年も期待しています。


ということで、2019年の漫画のトップ5でした。
他にも候補作として、
・好きな子がめがねを忘れた
・邦キチ!映子さん
・千年狐
・僕の心のヤバイやつ
異世界おじさん
・シネマこんぷれっくす!
・かげきしょうじょ!!
SPY×FAMILY
鬼滅の刃
がありました。
また今年も面白い漫画が読めることを祈りつつ、よろしくお願いいたしますのご挨拶。



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