『HUNTER×HUNTER』「道草」の楽しさと、「会いたい」と「見つける事」の違いの話

前回書いたハンタについての記事で、ネテロの遺志とそれを受け継ぐパリストン、二人の共通点と相違点を考えました。
yamada10-07.hateblo.jp
今回の記事では、前回の最後に触れた、二人と同じく「楽しさ」を行動理念に据えているジンについてと、それを考える中でピンと来た、ゴンの

上手く言えないけど…オレ… ジンに会いたいって思ってたんじゃなくって ジンを見つける事が目的だったんだって… 会ってみて気づいたって言うか

という言葉の意味を考えてみたいと思います。

ネテロ、パリストンとジンの「楽しさ」の違い

まずは、ジンの「楽しさ」についての考え方を、ネテロやパリストンと比較する形でまとめてみます。
前回の記事で、二人については

ネテロは、プロセスが楽しければゴールの結果にこだわらず、パリストンは、プロセスを楽しむためならゴールに辿りつかなくてもいい、と言えるでしょうか。
両者の違いは二点。まずは楽しさについて、ネテロはそれを結果とし、パリストンは目的としていること。そしてゴールについて、ネテロはそれを必要とし、パリストンは不要と考えていること。

と端的にまとめました。
この表現に沿って表すなら、ゴールを設定することでプロセスを楽しむのがジン、と言えるでしょうか。それを彼の言葉で言えば、「道草を楽しめ」です。

「道草」とはなにか

息子であるゴンへのはなむけともいえるその言葉は、自分自身の生涯を振り返って出てきたものです。ゴンに語った、自分がハンターを志すきっかけとなった王墓の話は、まさに「道草を楽し」んだ具体例でした。
当時のジンが望んでいたのは、ある王族の埋葬施設(とされる場所)へ行くことでした。ハンターになることはそのための手段の一つであり、それ以外の条件をクリアするために同好の士を募り、数年をかけて無事王墓へ足を踏み入れることができました。ですが、その時のジンにとって一番嬉しかったのは「ずっと願ってた王墓の「真実」を目の当たりにした事じゃなく いっしょに中へ入った連中そいつらと顔を見合わせて握手した瞬間だった」のです。
それをまとめてジンは、「大切なものは ほしいものより先に来た」と言いました。もちろんジンは王墓へ入ることを望んでいたし、そもそもそれがスタートだったのですが、その中途で生まれた仲間こそが、たどりついたゴールそのものよりも大切なものだった。それを、ゴールにたどりついてから初めて気づいた。「ほしいもの」を手に入れて初めて、それより前に「大切なもの」が来ていたことがわかったのです。
ここでの「ほしいもの」とは、この思い出話をするきっかけとなった、ゴンの「ジンがほしいものって何?」という質問が踏まえられています。そしてその質問については、ジンは「今目の前にないもの だな」と答えています。
またジンは、「オレはいつも現在いまオレが必要としてるものを追ってる 実はその先にある「本当にほしいもの」なんてどうでもいいくらいにな」とも言っています。

ほしいもの/大切なもの・必要なもの

ここでジンの行動をチャートにしてみると
1,「今目の前にないもの」をほしがる

2,「本当にほしいもの」へ辿りつくために「必要としてるものを追」う

3,「大切なもの」が(ほしいものより先に)来る

4,「本当にほしいもの」を得る
となります。
つまりジンは、(what I) wantと(what is) important、wantとneedを明確に使い分けています。ほしいもの/大切なもの、ほしいもの/必要とするものという二項は、別物としてはっきり区別され、そして「大切なもの」と「必要とするもの」は、イコールで結ばれうるのです。
「道草」とは一般に、回り道や目的から逸れたことのような、ネガティブさをともなったニュアンスで解されますが、ジンの場合は、そうではありません。すなわち、目的に到達するためには、それに応じた様々な手順を踏む必要がありますが、それらは、自分の思うままに目的地まで真っ直ぐいけない以上、広義の回り道、道草には違いありません。でも、それを惜しむな、面倒くさがるな、むしろ楽しめ、というのがジンの考えです。
臆断の域にも踏み込んでしまいますが、ジンはおそらく、自分が「本当にほしいもの」へ本気で辿りつこうとすれば、それに同調する本気の仲間、同士が得られると考えているのではないでしょうか。この王墓発掘の話もそうですし、G.I.のエピソードも、レイザーの回想から彼がジンを強く信頼していることが見て取れます。そしておそらく、ジンからレイザーの信頼もまた同様なのでしょう。暗黒大陸編だって、当初は敵対していたビヨンドの仲間らとも、彼らが本気で暗黒大陸を目指していることを理解してからは、ジンは彼らに胸襟を開き、彼らもまたジンと積極的にかかわろうとしています。

後から振り返って気づく「大切なもの」

ジン自身の言葉で「大切なものは ほしいものより先に『来た』」、「ほしいものより大切なものが きっとそっちに『ころがってる』と表現しているのは示唆的です。なぜって、「来た」や「ころがってる」という表現は、ジン自身が能動的に得た、というニュアンスではないからです。
自分自身が「ほしいもの」を追い求めている途上で、「大切なもの」に予期せぬ形で出会った、というのがこれの意味するところでしょう。予期していなかったからこそ、それが後から振り返って、実は「大切なもの」だったのだとわかるのです。というよりは、途中でたまたま出会った者達と最後まで道を同じくできたからこそ、そこに価値を見いだせた。つまり「ほしいもの」を得たという一つの区切り、ゴールがあったから、道中で出会った者達の価値が確定した、と言えるのかもしれません。
ですから、上のチャートには
4,「本当にほしいもの」を得る

5,「大切なもの」が来ていたことに気づく
と5を入れるのが正解なのでしょう。
とまれ、ジンの考えでは道草を楽しむべきなのです。道草を楽しむから、手間を惜しまず、手間と思わずやるべきことをやるから、途中で来たものが、ころがっていたものが、あとから「大切なもの」だったと思えるようになるのですから。

ゴンの言う「会いたい」と「見つける事」の違い

さて、ここまでジンの「楽しさ」についてまとめたところで、ゴンの話にいきましょう。
冒頭でも引用した、33巻No.345「署名」でのゴンのセリフですが、これを読んでからつい最近まで、何を言っているかいまいちつかめませんでした。「ジンに会いたい」と「ジンを見つける事が目的」って、いったいなにが違うんだと。
でも、このジンの言う「道草」という考え方を踏まえると見えてきたものがあり、そしてその結果、やはりカエルの子はカエルなのだなと思わずにはいられませんでした。
まず端的に違いを言えば、「会いたい」とはジンという人間それ自体がゴールであり、そのプロセスは考慮されていません。それに対して「見つける事が目的」とは、その字義通り、「見つける事」という行為それ総体、すなわちジンというゴールにたどり着くプロセスを味わうこともひっくるめてが目的だと考えます。
これはその後の、

オレ 「親だからずっといっしょにいたい」とは考えなかっただろうけど
もしも念が使える状態で ジンの強さや凄さを肌で感じてたら「ついて行きたい」って思ったと思う
(33巻 p91)

もあわせて考えることで、より深められます。
「親だからずっと一緒にいたい」とは、親=ジンと一緒にいることが目的であり、一緒にいればそれだけで常に目的はクリアし続けられます。ですから、一緒にいる間中何が起ころうが、それが面白かろうがつまらなかろうが、ジンと一緒にいるだけですべてオールオッケーとなります。それはジンの言葉を少し借りれば、「今目の前に」あるものしか求めていない、ということであり、「今目の前にないもの」をほしがるジンとは正反対のあり方です。
それに対して「ついて行きたい」とは、ジンの行く道を自分も一緒に歩いてみたい、ということです。つまり、ジンと一緒にいることではなく、ジンが味わうであろう経験も自分も味わいたい、ジンが楽しむであろうことを自分も楽しみたいということです。
わざわざ「念が使える状態で ジンの強さや凄さを肌で感じていたら」と断りを入れているのがその証左と言えます。この断りは、ジンが体験することを自身も同様に体験するためには、相応の能力が必要ということを理解していたから出てきたものでしょう。念を使えない今のゴンでは、ジンと一緒にいたところでジンと肩を並べられない。お荷物、足手まといにしかならない。ジンが楽しむことをジンのように楽しめない。道草を、楽しめない。
ゴンが「ジンを見つける事が目的だったんだって… 会ってみて気づいた」のも、上で書いたジンの、「後から振り返って、実は「大切なもの」だったのだとわかる」というものと見事なほどに軌を一にしています。ジンを見つけるというゴールに辿り着いたから、ゴンもそこまでの道程を振り返ることができました。そして、ジンという「ほしいもの」より先に、キルアやクラピカ、レオリオといった「大切なもの」が来ていたことがわかったのです。
まさにカエルの子はカエル。誰に教わるでもなく、ゴンはジンと同様の行動理念に至っていたのです。

むすび

ということで、ジンの考える「道草」の楽しみ方と、それと重なるゴンの思いの話でした。かれこれ3年以上引っかかっていたゴンの微妙な言い回しが解きほぐせて、魚の小骨がとれたようなスッキリした気分です。
本誌ではクラピカが主役になって絶賛連載中ですが、果たして今後ゴンが登場する機会はあるのか!?



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