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ヘドロ生命体が生み出す善と疎外と寂しさ『黒き淀みのヘドロさん』の話

お嬢様ひかりに仕える執事のジローは、彼女の横暴に振り回されてばかりでため息の毎日。彼の高校のクラスメートであるレーンはそれを見て、得意の黒魔術で、ヘドロを材料にしてお助け新兵器を爆誕させる。その名も、黒き淀みのクラウネッサことヘドロさん。「突然やってきて何もかも解決してくれる白馬の騎士」を期待されたヘドロさんは、まずは執事を助けるべく、彼と一緒にお屋敷へ帰るのだが……

ということで、模造クリスタル先生の新作『黒き淀みのヘドロさん』のレビューです。
何を言っているかよくわからないあらすじのとおり、何を言っているのか、どこを目指しているのかよくわからない作品。それでもなぜか、読んでて心の変なところに入り込む作品です。
ヘドロさんによる人助けという大まかなストーリーラインがあり、1巻ではお嬢様に仕える執事の手助け、ヘドロさんが高校に通うために教頭から出された課題の解決と、一応具体的な事件もあるのですが,その事件の内容や状況も突拍子もないものばかりです。
そもそも彼女が生まれた理由が、「白馬の騎士を自分で作るため」というレーンのある意味で独りよがりなものであり、彼女の生まれ方も、オホーツク海でとれたヘドロ生命体に魔導書クッキーカッターで人間らしさを与えるというぶっ飛んだもの。そこには、当事者なりの理屈はあっても、第三者というか読者が読んで共有できる合理はありません。登場人物たちはそれぞれの理屈を振り回し、それぞれがお互いの理屈を受け容れ、よくわからない理屈に根拠づけもないまま話は進んでいきます。
前単行本の『ビーンク&ロサ』よりもさらにキャラクター造形にかわいげを加えつつ、さらにキャラクター心理から共感できる部分を除く。本作の最大の特徴は、この「読者が共感できる部分の欠如」ではないかと思うのです。
よくわからない世界をよくわからないキャラクターたちがよくわからない理屈で生きている。
「おかしいか? うまく言えないけど でも私には悪から善を作る他に手はないんだ」
「私は自分の命も大切にし 自分も生き延びることで末永く社会に貢献したいと…」
「先生はな 生徒の未来に投資してんだ お前の将来を見るまで安心できねえんだよ!」
なんかいいことを言ってそうだけど、実際いいことなのかなんなのか、その状況そぐっているのかいないのか。挿入されるたとえ話っぽいエピソードも、いまいちピントが合っていないような。
読み手に疑問符をまき散らしたまま、物語は進んでいってしまいます。
けれど、そんな彼や彼女の心情でほぼ唯一共感してしまうのが、寂しさです。自分が世界から切り離されているような、自分が世界と噛み合っていないような、世界が自分を見放しているような、一人の夜中ににふと襲ってくるどうしようもない孤独と不安と寂しさ。よくわからない理屈で生きているキャラクターたちが垣間見せるそれらは、取り残されてぽかんとしているこちらの懐にささっと潜り込んできて、強烈な物寂しさを残していきます。
生まれたばかりのヘドロ生命体と友達になるゲーゲー、ナイトジャスティスとキングバーガーの昔話を語り終えた後のレーンあたりは、すっと心に影を落としてくるし、教頭から出された課題であるりもん先生の謎の解明のラストは、もう目を覆いたくなるようなつらさ。
読んでて、読者は物語から疎外されているような気分になるのに、不意に寂しさだけは伝わってきてしまう。
疎外と寂寥。
模造クリスタル先生の作品にはこの二つが付きまとっているものですが、本作でもそれは例外でありません。
好き嫌いが分かれるのは重々承知ですが、一度読んでもらえば、今まで早々味わってこなかったひんやりと冷た悲しい風が心に吹き抜けるのではと思います。
黒き淀みのヘドロさん
試し読み、っていうか1巻の3/4くらい読めてしまうのですが、まあまあどうぞどうぞ。


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