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漫画の話です。

『GIANT KILLING』不遇不屈の天才・持田 傲慢の裏にある連帯の話

一か月遅れで発売された『GIANT KILLING』42巻。
A代表に呼ばれた東京Vの持田選手と、海外で活躍する現A代表10番の花森両選手の因縁から、ETU対東京V東京ダービーへ続いていく、非常に熱い巻となっています。序盤から激しく球際で競り合い、両者一歩も譲らぬ展開です。

さて、そんな熱い東京ダービーもいいのですが、今巻でちょっとグッと来たのが、持田と花森の因縁話です。
既にジュニアユースの時代から、同世代の実力筆頭と目されていた持田と花森。攻撃的ですらある明るさを露わにする持田と、陰にこもった空気を常に醸し出す花森は、パッと見の印象は正反対にもかかわらず、プライドの高さも実力も非常に高い水準で競り合っており、出会った当初からライバル意識をむき出しにしていました。
けれど、同じチームで戦うようになってからは、10番はいつも持田のもの。お互いに活躍はしても、首脳陣からの評価は持田の方が上だったようです。
それでもアイツに負けているとは思っていない花森は努力を怠らず、活躍を続ける。でも、彼と同等かそれ以上に持田も成長する。二人の差はこのまま差は埋まらないのかとも思われた矢先に起こったのが、持田の怪我でした。「ダントツに上手かったから周りに削られまく」るという持論を持つ持田。それ自体は事実でしょうが、その持論通りに削られた彼は何度も負傷し、大舞台の度に怪我に泣かされ、海外移籍も実現せず、結局いまだにW杯の舞台に立てていません。
そんな持田が、花森が海外ブンデスに行く直前にした会話が、以下のものです。

「これで花森も海外組かー 下手なのに」
「お… おまえだって移籍の話はあっただろう
怪我ばかりこじらせ続けてるから駄目なんだ… その時点で二流だと気づけ
だから早く治して…」
「ははっ! それは違うね!
俺がダントツで上手かったから周りに削られまくってこうなってんだ いわばこればトップの証
俺がいなかったら 代わりにお前がぶっ壊されてるぜ
ははっ! 相手からしたらそこまで怖い選手じゃないか! 花森は」
(こいつ… どこまで減らず口を…!!)
「貸しといてやるよ 俺の10番
五輪に引き続きレンタル延長だ A代表まで貸してやるからお前がつけろ
「……
それって俺が決められるもんじゃないのだけれど…」
「いいな? 俺が戻ったら絶対返せよ」
(42巻 p60〜62)

ここでの持田の言葉は、一見すると自分が一番上手いという傲慢に溢れたものにも思えますが、その実、長年の好敵手であった花森のことを認めるものでもあるのです。
そもそも持田は、今回の東京ダービー直前に椿へ向かって言ったように、その相手を意識しているからこそ、敵意剥き出しの言葉を投げつけます。つまり、花森を意識しているからこそこのような挑発的な言葉を言い放っているのですが、それ以外の感情も混じっています。
持田が怪我をしている間、代表で10番をつけている花森。その事実に対して「貸しといてやるよ」と言うことは、花森を自分のつけるはずだった10番を貸しておくに足る人物だと思っている証左に他なりません。その上で、「俺が戻ったら絶対返せよ」と言うのは、それまで他の奴に奪われるな、(俺がいない間の)1番でい続けろ、という言葉の裏返しです。これから海外に旅立つ友人に向けた、持田なりの激励なのです。
花森は花森で、そんな持田の言葉の裏側をしっかり読み取ったからこそ、「けなしだからだけど嬉しそうに昔話は沢山しゃべ」り、今回の持田のA代表復帰を喜んでいます。まさに、「花森ほど… 持田の実力を理解していて 奴の復活を心待ちにしていた人間は他にいないってこと」なのです。
高いプライドとそれに見合った実力を持ち、にもかかわらず怪我に泣かされている持田だからこそ、五体満足で漫然としたプレイをする選手たちには辛辣だし、逆に相応の実力を持つ人間に対しては負けん気を燃やします。そして、ごくごく稀には、激励すらするのです。
今まで傲慢さと貪欲さが尖っていた持田の、また別の内面が覗いたエピソードとして、なんだかグッと来てしまいましたね。
さて、予定では来月43巻が出るはずなのですが、それはちゃんと出版されるのか、ちょっと心配。楽しみにしてるんだから。



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