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漫画の話です。

「もしや私が異常なのか」いえ、みなさん異常です 『お尻触りたがる人なんなの』の話

「おい フェラって知ってるか」
「斉藤 おまんま見せてくれね?」
「じゃあどうしたら尻をなでさせてくれるんだよ!!!」
「沢城嬢は己の女陰の内を見たことが無いそうだ」
衝撃的な発言から始まる、数多の卑猥な話。お下劣にお下劣を重ねながらも不思議と嫌悪感は生まれず、ライトなギャグとそこはかとないエロスに溢れた、珠玉のコメディ短編集。「溢れた」とかエロイな……

お尻触りたがる人なんなの

お尻触りたがる人なんなの

ということで、位置原光Z先生の新作『お尻触りたがる人なんなの』のレビューです。白泉社の雑誌「楽園」本誌とweb増刊で掲載されていたものを実に四年分。一回当たりの掲載ページが少ないのでこれだけかかったのもむべなるかなといったところですが、めでたく単行本してやれうれしや。
基本は高校生、たまに大人の下品な人間たちが繰り広げる、下世話にまみれたコメディ。帯には「もしや私が異常なのか」「安心しろ」という本文から抜粋したセリフがあるけれど、何に安心しろというのか。お前もあたしも誰も彼も、みんな異常だから安心しろ、ということなのか。たぶんきっとそうだ。そうとしか思えないくらい、異常な人間と異常な会話で満ち満ちている。「満ち満ちている」とかエロイな。
異常だの正常だのいったい誰が決めるのだと嘯きたくなるような世の中ではあるけれど、まあこれだけ下ネタが乱舞するような世界は異常と言って差し支えはあるまい。たとえ人類遍く須らく異常であり、あとはその濃淡だけだとしても、女陰を連呼する女子高生たちは、たぶん濃厚に異常だぞ。
けれど、人前でするには憚られるアレな話も、軽妙なテンポで展開される会話のおかげか、不快の念も湧かず、するするすると受け入れられる。それどころか、笑える上に、ちょっとちゃんと、エロイ。すごいぞ、なんで四白眼のむにっとしたデフォルメ顔であんなにエロイんだ。むちむちした体のせいか。乳袋のように過剰に強調されていない分だけ生々しい肉感のせいか。白ワイシャツのシワのせいか。シワすごいな。あれのおかげでエロさが五割増しだ。下手にボディコンシャスな服より現実に着られているようなゆったりした服の方がシワの入り方が生々しくていやらしいって沙村広明先生が言ってたけど*1、そういうことか。
あんまりエロイ方面に話を振ってもなんなので笑い方面に戻したいけれど、こちらも実に驚嘆すべきものだ。ここまで低俗な下ネタ祭りをなぜ笑えるものに昇華できるのか。他人の生々しい下ネタ話なんて自分がどうやって生まれたかレベルで聞きたくないものだけど、この作品にはそれがない。笑える。真顔で言う「しかし女性器を見て食欲を増進させるという可能性も残っているな……」とかひどいにもほどがあるのだが。……いや抜き出してみると本当にひどいな。本当にひどいのだが、ハイテンポで交換される会話の中に潜り込んでいるとそれが可笑しいものととらえられてしまう。飛び出てきた言葉がどんなに下品でも、聞く方も言う方も、それに対して下卑た笑いを浮かべるでなく、意味するところを本気で考えたり、あるいは困ったように照れたりしていると、つまりは真面目であると、嫌悪感催すいやらしさはどっかいってしまい、見ているこっちには面白さが強く残るのだ。真面目なら真面目な分だけ、面白い。
面白さで好きな話は「お嬢様とオレ」。なんだよモレ寸て。いや漏れる寸前の略なわけだけど。「先生だってムラムラする」。自分のケツを他人に顔でぐりぐりなすりつけられると本当に惨めな気持ちになるものなのか、そして他人にそれをするとやばい程に楽しいものなのか、報告が待たれるところである。
エロさで好きな話は「もみかた」。コマ数を贅沢に使って揉む方揉まれる方両者のじりじりした心の動きを描いてるの、ホントエロイ。「処」。これはエロイっていうか、オチが愛しい。
楽園 白泉社
リンク先の「web増刊へGO!!!」4/13付で、収録作の一つである「ゴーヤ」が読めます。
ああ、位置原先生の次の新刊はいつになるのか……


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*1:シスタージェネレーター p100