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鬱屈した日々と、そこに吹き込む風と 『さよならガールフレンド』の話

高校三年生の滝本ちほは、田舎での生活に倦んでいた。閉鎖的な人間関係。噂話くらいしかない娯楽。監獄のように取り囲む自然。出口も未来も見えない生活に、吐き気すら感じていた。
ある夏の日、ちほは恋人・高岡の浮気を知る。相手は尻軽と悪名高い、ビッチ先輩こと田淵りなだった。誰にでもやらせる彼女にちほは嫌悪感を覚えるが、どん詰まりの人間関係にはなかった、この田舎町での絶望を共有できる唯一の相手として、次第に惹かれていった。時は移り受験が近づいてくる。ちほは東京の大学を受験し、この町を出ていくことを決めたのだが……(「さよならガールフレンド」)
表題作を含む全6本の、鬱屈した生活の中で風穴を求める人間たちを描いた短編集。

さよならガールフレンド (フィールコミックス FCswing)

さよならガールフレンド (フィールコミックス FCswing)

ということで、高野雀先生の処女単行本『さよならガールフレンド』のレビューです。「コミティア見本誌読書会第一位」と帯の惹句にありますが、その期待を裏切らない、素晴らしい作品でした。
収録作品は計6本。
若さを感じられなくなってきた自分といつまでも若いつもりの彼氏とのギャップに苛立つアラサー女性を描いた「面影サンセット」。
彼氏の急な転勤話で引っ越しと結婚が持ち上がった女性が、高校来の友人との過去と未来に思いをはせる「わたしのニュータウン」。
通勤電車で見かけるだけの男性になんとなく心惹かれていたら、その人とそっくりな後輩が入社してきて、なんだか変に心を乱してしまう女性の「ギャラクシー邂逅」。
「女らしい」姉との比較にうんざりしてきた女性が、自分とセックスをしてくれる男性に出会うも結局セフレでしかなく、自身の価値の低さに窒息してしまいそうになる「まぼろしチアノーゼ」。
クラスメートの女子が突然家に転がり込んできて、自分の居場所がどんどんなくなっていくことに焦りと苛立ちを覚える男子中学生の「エイリアン/サマー」。
以上に表題作を加えたラインナップとなっています。
6作品に共通するのは、最初にも少し書いた通り、主人公たちが日々に鬱屈、あるいは苛立ちを覚えていること。
閉塞的な田舎の人間関係や、自分とのギャップが日々強くなっていく彼氏、稚い恋心で自分を振り回す友人、後輩との距離感、「女の子」としての価値のない自分、平和な日常に浸食してきたクラスメート。
息苦しさやままならなさ、所在なさ、見えない何かにからめとられているかのような閉塞感。彼女や彼は日常の中で喘いでいました。
彼女や彼が喘ぐ理由は、どこまで日常的なもの。普通なもの。言ってしまえば、誰にでもあるようなもの。たとえば「さよならガールフレンド」の主人公・ちほの友人らにも、作中では書かれていないものの、きっとよく似た悩みがある。でも、そのありふれた悩みを重苦しく、でも淡々と描く筆致は、読んでいるこちらに彼女や彼の心情をじわじわと染みこませます。それはあたかも、白い木綿の布を汚れた水が浸食するよう。その感覚は「さよなら〜」や「まぼろし〜」で特に顕著です。
そして、彼女や彼の塞いだ日々に風穴を開け、新鮮な空気を送り込んでくれたのは、あるいは彼氏の浮気相手だったり、あるいは自分とはまるで違うはずの姉だったり、あるいは鬱屈を生みだした張本人だったり。なんであれ、吹き込まれた一陣の風は、心の中のよどんだ空気を揺り動かし、わだかまっていた重みを減じてくれるのでした。
それは決して、立ち込めた靄を一息で消し飛ばしてくれるものではありません。当たり前の日常はそこまで軽くない。でも、かきまぜられた心の視界は少し開け、今まで自分が見ていたものがこの世の全てではないことを気づかせてくれます。出口が、未来がどこかにあることを知れるのです。物語の最後にかならず見える明るさが、読後感を和らいだものにしてくれる。


感覚的な表現をすれば、この作品を読んだ印象に色がありません。モノクロ。
もちろん決して悪い意味ではなく、それが意味するところは、冷静さ。キャラクターからの距離。キャラクターが感情をこじらせていても、それの描写はこじらせを起こすことなく淡々と距離をとって描いている。臨場感ではなく、スクリーンの向こうにキャラクターがいるような温度の低さ。
感情の起伏はしっかりと描いているのに、そこに過剰さはない。それをあたかも、昔のモノクロ映画のように感じているのかもしれません。


デビュー作がこれとは実に空恐ろしく、実に今後が楽しみなのです。マジで。
単行本未収録の作品が一本読めるので、お試しはそちらもどうぞ。こういう群像劇大好きっ子なので、早く次の単行本を出して収録するんだ!
さよならガールフレンド特別サイト あたらしいいひふ


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