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彼女らはそれに乗るのか、抗うのか 『運命の女の子』の話

人が生まれる時に必ず「呪い」をかけられるようになった世界。16歳になるとその呪いが発動し、人はそれを克服しなくてはいけない。ただ呪いの中身は千差万別で、軽重もある。呪いが大きければ大きいほど、それを克服した人は偉大な人物になるという。
そんな世界の日本で、唯一人「呪い」をかけられなかった少女・古賀差保子。16歳という、周囲の同級生に呪いが発動する歳を生きている彼女は、当然のように差別をされていた。「呪い」の意味とは。一人呪われなかった自分の意味とは。差保子が己の境遇に思い悩むある日、日本中で老若男女を問わず首から木が生え昏睡するという事件が起きた・・・・・・。『不呪姫と檻の塔』外2本収録の短編集。

ということで、ヤマシタトモコ先生の新刊『運命の女の子』のレビューです。本作には冒頭で書いた『不呪姫と檻の塔』の外に、連続殺人事件の容疑者となっている少女と彼女を尋問する女性刑事の間の噛み合わない問答を描いた『無敵』、高校で演劇部に所属していた男子高校生一人と女子高校生二人の間の人間模様を社会人になった今語り直す『きみはスター』が収録されています。
ご覧のように、本作には『運命の女の子』というタイトルの作品は収録されていません。にもかかわらず、このタイトルなのはなぜか。
それはきっと、三作とも、主人公となっている女の子が、良かれ悪しかれなにがしかの運命を背負っているかのようだから。


以前の記事では、定められた運命の中で自身の有限性を自覚して初めて人は自由になれる(『バガボンド』)、あるいは、世界にはあらゆる可能性があるけれど、その中で自身が選びとれる道は一つしかなく、それゆえに未来は定まっている(『戦国妖狐』)、また、自由には限界がある(運命からは逃れることができない)のだから楽しんだもの勝ち(『極東学園天国』)というような運命についての話を書きましたが、つまるところそれは、生きている限り逃れようのないもの。あたかも地球上で生きる者にとっての重力のように、意識できようとできまいと、その人間から片時も離れずにある方向へと導き続けるもの。
『無敵』の女の子は、人を殺す運命を。
『きみはスター』の女の子は、人を魅了する運命を。
『不呪姫と檻の塔』の女の子は、世界を救う運命を。
彼女らは、人を殺すべくして殺し、魅了すべくして魅了し、救うべくして救うのです。


『無敵』の彼女・由里本美鳥は、人を殺し、家を燃やした後に思いました。「わたしはわたしのやるべきことを正しく見つけすべて正しく行った」と。一連の行為は「すべて 息をするように自然に なめらかに」。彼女が人を殺したいと思っていたのか、人を殺してどう思ったのか、なぜ人を殺したのか、私たちにわかるような言葉では何一つ語りません。尋問にも「すべて正し」い自分に確信を持ちながら悠々と喋りますが、その姿が他の人間にどう映っているかを彼女が自覚しているのかいないのか、それすら私たちはわからないのです。
彼女と対峙している刑事は、靄の中を手探りで進むような焦燥に駆られます。この靄の中から出られるのか。出られたところで本当に自分がそれまでいたところなのか。出られた自分は本当にそれまでの自分と同じなのか。がりがりと、心が削られる。
運命。それを信じた少女はあまりにも強く、あたかも運命が彼女を護っているかのようですらあるのです。


『きみはスター』の彼女・井上公子は、決して恵まれた容姿をしていません。高校の演劇部では高い学業の成績や演技力もあって目立つ人間の一人でしたが、万人に受け入れられる社交的な性格ではなく、人の輪の中心というよりは孤高。そんな彼女は、同じく目立つ人間の一人であった男子・甲斐谷に好かれ、同じく目立つ人間の一人だった女子・小高を好いていました。甲斐谷も小高も、井上と違い、容姿も性格も華やいでおり、まさに人の輪の中心にいるような人物でした。けれど、彼や彼女には、スターになる運命が無かった。いや、スターというよりは、自分の望む道を歩む運命が。その運命にあったのは公子だけだった。きっとその道を分けたものは、意志の強さ。あらゆる可能性の中で、自分の望む道を選び取る強固な意思の有無。卒業直前に、将来の夢を聞かれる生徒たち。その中で、「〜になりたいです」と願望の形で甲斐谷と小高は夢を述べ、公子だけが「〜になります」と断定で述べたのだ。
結局、夢をかなえたのは公子だけでした。甲斐谷と小高が幸せか不幸せかは関係ありません。スターになる運命は、誰かにとって手に届かないままに輝いている運命は、公子にしかなかったのです。


『不呪姫と檻の塔』の彼女・古賀差保子は、まさしく運命的な存在でした。日本中で、ただ一人「呪い」を与えられなかった人間。そこからは、善いも悪いもいくらでも運命を汲み取れます。しかし、その意味はわかりません。そのような運命が彼女にもたらされた意味は、理由は。なぜ他の誰でもなく自分なのか。
得体のしれない運命を背負わされた彼女が、ついに出会った大きな、「運命」的な事件。けれど、果たしてそれが運命にいい意味を与えるのか悪い意味を与えるのか。それともそれは、自分で決めていいものなのか。彼女がなした決断は。


目に見えぬ何かに抗うのか、流されるのか、それは様々ですが、そうであるのが運命であるかのように見える人間の姿には、人の心を揺さぶるものがあるのです。


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