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漫画の話です。

再会した幼馴染みのいびつで不穏な関係 『シュガーウォール』の話

10年前に父母を亡くし、そしてつい一か月前にも姉を亡くした高校生・柚原(ゆはら)。なんとか一人で暮らす中、見覚えのないベリーショートの女の子と出会う。だが、自分を呼ぶ「ゆんちゃん」という響きに、相手がかつて隣に住んでいた幼馴染み・黄路(こうろ)だと思いだした。大学に通うためにまた戻ってきていた彼女は、不摂生な暮らしをしていた柚原に甲斐甲斐しく世話を焼く。それに感謝をする柚原だが、一つ悩みが。どうしても昔の黄路の顔が思い出せなかった。昔のように、とはいかないどこかバランスを欠いた二人の関係。このいびつさは、二人をどこへ導いていくのか……

シュガーウォール 1 (リュウコミックス)

シュガーウォール 1 (リュウコミックス)

ということで、ninikumi先生の初連載、『シュガーウォール』のレビューです。
表紙だけを見ると男の子同士のなんかあれのヤツかと思いかねませんがそうではなく、むかって右の小さい方が黄路、ベリーショートの女の子です。しかも女子大生です。眉毛が出ています。とてもいいですね。
けれど本作は、そのようなよさとはまた別の方向で面白さを生み出しています。どの方向か。不穏さです。
天涯孤独になったというのに、なぜか寂しさを見せない柚原。ゴミ屋敷になりかけた家で一人暮らしをしているその姿に、ほんのひと月前に姉を亡くした喪失感は見られません。不思議なほどに、普通の姿。そのような態度が昔からのものなのか、それとも姉を亡くしたことの反動なのか、それはまだわからず。いま私たちに見えるのは、ただぼんやりと生きている柚原の姿だけ。
そんな柚原の前に現れた黄路。柚原の幼馴染みで、昔は確かにいっしょに遊んでいたのだろうけれど、それについての確かな記憶が彼にはない。断片的で、残っているピースにも霞がかかっていて、果たして今の黄路は本当にあの時の黄路なのか、確信が持てないでいます。昔と今と、二つの黄路を結んでいるのは「ゆんちゃん」という呼び方ばかり。
独り暮らしになってしまった柚原のために、自分の分のついでにとお弁当を作ってくる。それはまだいい。けれど、それが日に日に豪華になっていって、家の大掃除をしたついでに合鍵を勝手に作って、体調を崩したところに看病と称して上がり込んで。甲斐甲斐しいというにはいささか度が過ぎています。それはもはや、執着。
しかし、このあからさまに度を越している黄路に対して、柚原は拒絶をしません。彼女を訝しんではいるものの、逆に言えば訝しむ程度でしかなく、基本的には行為をそのまま受け容れているのです。その態度は、いっそ黄路の方が呆気にとられるほど。そして彼女の行為は尖っていく。
する方と、される方と、ともにいびつ。
会話の合間合間に挟まれる、底知れぬ黄路の目。何かを隠していそうな口元。幸福の対極にある笑み。背景が少なく空白の多い紙面が、彼女の腹の底にはいったい何が潜んでいるのか、想像をかきたてます。
第1話が試し読みできますが、そこでもう不穏さはありありと出ています。最後のページで、いまだ明かされない二人の過去に俄然興味がわくこと請け合いです。
月刊リュウ-シュガーウォール
これは続きが楽しみでしょうがない。裏表紙には「新感覚ラブストーリー♡」とあるけれど、そんなかわいらしいもんなのか。


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