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漫画の話です。

光る女の子は恋してる証拠 じゃあ彼女は…? 『恋は光』の話

男子大学生・西条は、中学に上がった頃から恋をしている女性が光って視えるようになった。けれど、自分に向かって光ってくれる女性がなかなか現れないでいる内に、いつしか彼は恋愛そのものを遠ざけるように。そんな西条がある日大学の講義で出会ったのが、東雲。一目惚れだった。恋というものがよくわからない、という東雲は、スマフォどころか携帯自体を持たない、服は近所の洋品店で買う等々どこか浮世離れした女の子。そんな彼女とまずは友人から始めた西条だけれど、果たして二人の恋の行方は……

恋は光 1 (ヤングジャンプコミックス)

恋は光 1 (ヤングジャンプコミックス)

ということで、秋★枝先生の新作『恋は光』のレビューです。
普通のキャンパスライフの中で繰り広げられる、ちょっと普通じゃない二人の恋愛模様。かたや理屈馬鹿の男子。かたや世間から二歩も三歩も外れたマイペースな女子。それだけを見ればただの不器用なおつきあいですが、恋する女性に光が見えるとのたまう西条のおかげで不器用さにも拍車がかかり、読んでるこっちもニヤニヤハラハラです。
端で聞く分には妄言としか思えない能力を持つ西条。ただ、彼の目には光、それもたいそう美しい光が見えているのは確かで、その光が何を意味しているのか理解した彼は、誰もその光を自分に向けない、すなわち誰も自分を好きになってくれないということを否が応でも目にする内に、恋愛から背を向けるようになってしまいました。
「自分の生活に恋愛の入り込む余地などない 時間は有限 やるべきことは山ほどある・・・!(キリ」などと嘯いていても、それは寂しさ虚しさの裏返し。彼の周囲にブドウはたくさん生ってるし、そのどれも甘いのだろうけれど、唯一届かない恋愛のブドウだけ酸っぱいと考えるのは道理が通らない。けれど、自分一人では手に入れられないブドウから、哀れ西条キツネは何年もの間目を逸らしていたのです。
そんな彼が、ひょっとしたら生まれて初めてときめいたのが、大教室の講義で偶然隣の席に座った東雲嬢。ギョーム・ド・ロリスの『バラ物語』を熱心に読んでいる彼女に西条は思わず話しかけたのですが、会話の中で発した、面白いと思っていないのになぜその本を読むのかという彼の問いに、東雲は夢見るように、憧れるように、でも大真面目に「恋というものを 知りたくて」と答えました。その言葉のどこがどう響いたのか、学校のチャイムと一緒に西条の心の鐘も鳴り響き、彼は恋に落ちたのです。
中学時代からひたすら恋から離れて生きてきた西条。そんな彼がどうやって東雲に近づくのか。
変わり者とはいえ、彼の周りに女っ気が皆無だったわけではありません。北代さんという、小学校時代からの腐れ縁である女性がいるのです。彼女は自他ともに認めるお顔のつくりがよろしいお方。西条のことを「センセー」と呼び、浪人しているため学年がひとつ下である彼と講義を一緒に受けたりもしている、よくできた女性です。そんな彼女が眼中にないとか西条君は大いに反省すべきなのですがそれはともかく、彼女がたまたま東雲さんと顔見知りであったため、一席設けることができました。東雲さんとの距離を縮めるためにそこで西条が持ち出した秘策が、なんと交換日記。いつの時代の小学生かと。東雲さんも呆れるかと思いきや、あにはからんや、こころよく承諾。こうして交換日記がとりもつ二人の関係が始まったのです。
交換日記を続けたり、一緒に講義を受けたり、映画デートに行ったりと、一見順調な二人の交際ですが、西条君は浮かない顔。なぜなら、一向に東雲さんが光らないから。
そう、西条君はその能力があるがゆえに、恋愛の幻想に浸ることができないのです。
あの子、ちょっと俺の方見てたけど、俺のこと好きなんじゃないかな…
あの子、前話しかけてくれたし、きっと俺のこと…
そういう、日本人男子の98%が成人儀礼として通過する幻想を、自身の能力によってことごとく無効にされてきた西条君。ある女の子が誰を好きか一目でわかるようであれば、幻想に浸りようがありません。
ですがそれはとても悲しいこと。恋愛の99%は勘違いから始まり思い込みで進展するのですから、その両方を潰されては、恋愛を楽しめるはずもないのです。
東雲さんと一緒にいるのは楽しい。一緒にいたい。でも、彼女は光を出してくれない。自分を好きになっては、くれない。
西条君自身が東雲さんを好きなだけに、光が視えないという事実は、楽しければ楽しいほど重くのしかかってくるのです。
誰かを好きになって浮かれている気分と、その誰かが自分を好きになってくれずに絶望する気分。「恋する女の子が光って視える」という設定は、相争う二つの内心を実にうまく炙りだしています。この設定が、恋愛を描き出すためのただのギミックでしかないというのが、とてもよいです。
もちろん東雲さんは西条君のそんな特殊能力を知るわけもなく、のほほんとマイペースに振舞いながら、恋とは何でしょう、とコール・ポーターよろしくなことを考えているのです。果たして彼女は本当に西条に恋愛感情を抱いていないのか。
そんな二人の間に、北代さんと、他人の彼氏を奪うのが大好きという同級生の悪女・宿木南も加わって、ようわからん四角関係に。ひょっとしてこれは「視覚」とかかっているのかと邪なダジャレもよぎりつつ、理屈っぽい西条君と東雲さんの今後の関係が楽しみなのです。
ところで北代さんマジ天使だし、カラアゲ is マジ GOD。
第一話の試し読みはこちらから。
集英社マンガネット 恋は光


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