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食あるところに人あり 人あるところにドラマあり『くうのむところにたべるとこ』の話

ということで、ヤマシタトモコ先生の新作『くうのむところにたべるとこ』のレビューです。
食あるところに人あり。人あるところにドラマあり。何かを食べる・飲む・作る・振る舞う、そんなワンシーンの中に潜む、男と女、あるいは女と女の人間模様を描いた掌編集です。基本的には各話読み切りですが、他の話でも顔を見せるキャラクターもいるので、ちょっとした群像劇でもあります。ヤマシタ先生のBLでは『cu,clau,come』がトップレベルに好きな私としては,食にまつわる物語ということで発売を心待ちにしていたのですが,なかなかに素敵な作品です。
焼肉を食べながらだらだらと喋ったり、糠床をいじりながら欲情したり、生ハムを見つめながら妄想したり、くっそまずい手作りラーメンのせいで初恋がぶっ壊れたり。なんというか、基本的にはばかばかしいお話なのですよ。
で,ばかばかしさの最たるものは初回限定の漫画帯で,一言で言えば,ベーコン帯。
な・・・なにを言っt(ry

ほら,ベーコン帯だ。
な?
いやまあなにが「な?」なのかはわかりませんが,私の潔白は証明されたはず。私は狂ってないですヨ?
とまあこんなばかばかしさを根底に持ちながら,そこかしこに人付き合いの機微がにじみ出ている。たとえばもっとも頻繁に登場する同性愛カップル(♀)。片方は本気の同性愛,片方はたまたま好きになった相手が女性,というカップルなのですが,異性に対するフェロモンバリバリの前者が後者に対して,「嫉妬しないあんたにむかつく」と言えば,後者は「あんたが別の女の子と仲良くしてたら超腹立つ」というくだりがあって,それなどはもう,性的嗜好の違う人間同士のものの見方が交錯する感じがして,とてもよいのです。
あとは,むっちゃ絵になるハイソな老夫婦が,お高いホテルのバーで小粋な会話を嗜んでいらっしゃるその腹の中で,普段の自堕落な生活態度を見透かしあっているという,なんかようわからんお話。外見も会話も,いかにもハイソサエティな雰囲気を存分に醸し出しているにもかかわらず(少なくとも,ホテルのバーの初めて来てはしゃいでいる若い女性二人に「映画みたい」と言わしめる程度にはハイソむんむん),やれ妻は「タバコもブランデーもコーヒーも苦手なくせに絵になるからって理由だけで飲みやがって」と夫の腹の底を見抜くし,夫は夫で「そんな重いピアスをして履きづらい靴を履いてもう限界だろ早く家で手作り青汁飲んで『まずーい』って叫びたいんじゃないのか」と妻の心を見事に見透かす。素敵なのは,お互いがお互いそういうことを相手が考えているだろうというのがわかっていること。いろんな意味でお似合いのご夫婦。
さて,当ブログでは食に関する記事をわりと書いていますが,そこでも何度か言及しているように,食事をおいしく食べられる人間は,長くつきあえる人間だと思っています。食事にしろ,睡眠にしろ,そしてもちろん性交にしろ,欲望がもろに露呈するシーンを気兼ねなくともに過ごせる相手というのは,非常に貴重なものです。本作は,まず食に関するお話ですが,それ以外にも欲があふれかえっています。その欲をうまく分かち合ったり,あるいは一人暴走させたり,さもなくばすれ違ってしまったり。そういう,日々の中で人と人とがかかわり,欲望が盛り上がったワンシーンを基本ばからしく,そしてシニカルに,時には少しだけ切なく切り取っているのです。その読後感が心地いい。
ところでこれ,巻数表記がないですけど,まさか,終わ,り?
いやいやまさかまさか・・・・・・


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