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『さんかく窓の外側は夜』先行読書会 ~今夜は生でヤマシタトモコ~ の話

ヤマシタトモコ先生の新作『さんかく窓の外側は夜』 が2月10日に発売されることを記念して、出版元のリブレ出版が、1月31日にこんなイベントを企画しました。
男子限定! 新作コミックス先行読書会 〜今夜は生でヤマシタトモコ〜
で、応募してみたら、どんな幸運か見事当選。行ってきました。
ということで、今回はそのイベントのレポートです。
なお、基本的に自分の記憶とちょっとしたメモのみで書いているので、いくらかの事実誤認や前後関係の逆転があるかもしれません。後日アップされるであろうリブレ出版様のレポートとの多少の差異はご容赦ください。そこまでひどい記憶違いはない。はず。


リブレ出版社へ
イベントの開催時間は19〜21時。私群馬の人間。そこから必然的に導き出される帰結として職場を早退し(「すいません、今日BL漫画の新刊読書会があるので早退します」が通じる理解ある職場でよかったです)、高崎線で揺られること約2時間。道中はグリーン車内でずっと既刊を読んで会に備えてました。
リブレ出版があるのは神楽坂のとあるビルの一画。案内メールを頼りに行った先は、出版社というよりマンションぽいエントランスで、ここでいいのかと軽く不安に思ったのはここだけの話。
エレベーターで5階まで上がり、受付開始予定時間の18:45に到着、編集室で応募した際の名前(「山田」)を名乗り受付を済ませました。
そこから通されたのは、中央にテーブルが置かれた8畳ほどの部屋。テーブルの上には、ヤマシタ先生の既刊が出版社を問わず並べられ(でも、たぶん『ひばりの朝』だけがなかった。なぜだ)、あとは軽食とペットボトル。開始予定時間の19時まで、配られたアンケートの記入と、壁に貼られた複製原画を見て過ごしました。


読書会開始
三々五々と他の参加者も集まり、定刻までに6名の男性がそろいました(席は7つあったのですが、どうやら残りの1名は病欠だったようです)。読書会&座談会ということで、参加人数は5〜10人だろうなとは思ってましたが予想的中。倍率は約10倍といったところですかね。今年の俺はだいぶツイてる。
正直なところ、参加者層がまるで読めなかったのですが、見たところ下は大学生から上は40代くらいまで、ぼちぼちばらけていました。群馬から参戦した自分が一番の遠征組だったようですが、あとで聞いた編集部の方の話では、東北や北海道から応募したつわものもいたのだとか。おそろしいまでの熱意。
時間になったので、編集部の方が挨拶と、当日の会次第を説明。
新刊の読書会→ヤマシタ先生登場→参加者自己紹介→新刊感想を含む座談会→質疑応答→新刊にサイン
という流れで2時間です。
で、まずは新刊読書。発売から10日も前に読めるとはなんたる誉れ。
40分ほど時間をとって読書開始……でまあ当然と言えば当然のことですが、読書なので全員終始無言。自分を含む参加者は、皆本誌を読んでいないため、サイトなどであらすじくらいは知っていても作品自体に触れるのは初めて。そりゃあ無言で読み耽ります。
男6人が一室にこもりBLを読み耽るの図。なかなかない絵面ですね。
発売前なので、作品についての細かい話は後日のレビューにゆずりますが、ダイレクトにオカルトものという、ヤマシタ先生の新ジャンルです。自分はあらすじすら一切調べずに当日読んだので、かなり面喰らいました。ただ、もちろん面白いです。


ヤマシタ先生登場
予定通り、約40分で読書タイムは終了。トイレ休憩をはさみ、いよいよヤマシタトモコ先生ご本人の降誕です。
はじめてお目にかかったヤマシタ先生は、すらっとしたお綺麗な方。『裸で外には出られない』のエッセイの調子そのままに、洒脱にそして軽快にお話をなさりました。
さて、ここで改めて参加者の自己紹介。事前のメールで、自己紹介の際に各自一番好きなヤマシタ作品も教えてほしいとの案内があったので、それもあわせての発表です。
ヤマシタ先生の既刊は19作品(のはず)ですが、6名の参加者が挙げたのが、『ひばりの朝』×2、『HER』×2、『ドントクライ、ガール』×1、『Love,Late,Love』×1、『スニップ,スネイル&ドッグテイル』×1と、意外な偏りを見せました(二作品挙げた方がいたため、全7票)。ちなみに私はもちろん『ひばりの朝』。リブレ主催のイベントでリブレ作品を挙げる人が皆無だったことに申し訳なさを覚えないわけにはいかないのですが、だって一作品ていわれると……いや『薔薇の瞳は爆弾』や『ドントクライ、ガール』、すごい好きですよ? 
編集サイドとしては、BL作品を挙げた人が少ないことはある程度想像の範疇だったようですが、『HER』の人気は意外だったようです。応募段階のメールでも同作が一番人気だったとか。その点についてヤマシタ先生や女性編集者の方々は、「女性の黒いところをこんなに見せちゃっていいのかと読んでて思いました」「逆にこれを男性が読んだらどう思うんだろう」「これを鵜呑みにして女性に接すると火傷する」ということをおっしゃっていました。


座談会
で、新作座談会。既に述べたように、あらすじすら読まずに臨んだ無作法な私とは違い、他の参加者の方はちゃんといくばくかの下調べをした上で読んだご様子。「ガチなオカルトにびびった」「Bromance とはなるほどこういうことか思った」などの意見が飛び出しました。私は「Bromance? それ美味しいの?」と一人間抜け面を浮かべていましたが、リブレの本作紹介ページにそういう言葉が登場してるんですね。ちなみに女性同士のそれを指す言葉は"womance"のようです。ヤマシタ先生は、これらの言葉がオックスフォード英英辞典に既に掲載されていることにとてもご満悦でした。「言葉を与えられ、これらの概念は市民権を得たのだ!」と。いや、それはどうかな……
話は新刊についてから始まり、ヤマシタ先生の既刊について、男性がBLを読むときの感情移入はどのような形なのか、カップリングというBLの特殊性、BLに登場するキャラクターに対する萌えという名の色眼鏡、リアル書店へ足を運ぶペース、月に購入する漫画の冊数、販促を効果的に行うにはどうすいればいいか、など転々と移っていきました。
幸いなことに発言する機会を多くいただいたので、それぞれについて思うところを縷々と述べさせていただきいたのですが、その中でも、「男性がBLを読むときの感情移入」というテーマ、それを敷衍しての「作品を読むときの感情移入」ということにちょっと考えるところがあるので、それについてはまた後日の記事で。
備忘的に一言述べておくと、私自身はBLを読む際、自分自身のセクシュアリティとは関係なく、主視点となっているキャラクターに没入して読むのですが、それは必ずしも一般的ではないようです。女性編集者の方や他の参加者がおっしゃっていたのは、物語を第三者的に読む、当事者間の関係性を楽しむ、ということで、それは私にはあまりない(皆無ではないものの、少なくともヤマシタ先生の作品を読む際にはない)視点なのです。
「萌えという名の色眼鏡」とは、上述したようにBL愛好者はカップリング(どっちが受けでどっちが攻めか)についての嗜好が各人で異なるため、自分の嗜好で作品を読んでいくと、実際に描かれる受け/攻めと食い違うことがあって、そういう時は自分はこの作品をうまく楽しめていないんじゃないか、作者の意図をくみ取れていないんじゃないかと思ったりすることがあるそうです。やはりこれも、私にはない感覚です。
なるほどなあと印象深かったのは、『BUTTER!!!』を描く際は、高校生の語彙で自分(=作者)の言いたいことをうまく伝えるにはどういう言い回しをすればいいのかと悩んだ、というお話です。自分でない者に自分の考えを語らせるときは、使われる言葉は自分の言葉でなくその者の言葉でなくてはいけない、ということですな。
また、『ひばりの朝』について、「主人公不在の物語」「ひばりは常に誰かを通して語られる」「描いているときは、最初はすごくきついが、描いていくにつれてその毒が抜けていく感じがする」とおっしゃっていました。
私が自己紹介の際に『ひばりの朝』について、「登場人物たちはひばりを自分の見たいようにしか見ていない。つまり、ひばりを通して自分を見ているのであって、その意味でひばりは彼ら彼女らの鏡だと思った」というようなことを言っていたのですが、それを受けての話も広がり、「『ひばりの朝』を読んでると自分の中の悪意、ある意味での毒が抜けていく」「いや、毒が抜けていくことで、そういう毒が自分の中にあることに気付く」「その意味で、『ひばりの朝』が読み手にとっての鏡でもある」という話も出ました。もっとふくらましたかった!


質問会
さて、個人的にはもっとも楽しみにしていた質問会。以前、別の漫画家さんとお話しさせていただいたときに、広く創作物や創作行為などについて興味深い話をいろいろ聞けたので、ヤマシタ先生からも面白い話を聞けるんじゃないかと強く期待していたのですが、非常に残念なことにすでに時間がかなり押していました。まあ2時間の会で、そのうち45分が読書&休憩に費やされていますからね。おまけに、座談会がどうやら編集サイドとしても予想以上に盛り上がったらしく、思ったより質問の時間が削れてしまったようで。4つほど事前の質問を用意していたし、新作について座談会中に聞けなかったこともそこで聞こうと思っていたのに……
でもまあ、ここでも幸いなことに質問をする機会に恵まれまして、というかもはや俺喋りすぎだろ自重しろとも思わなくもないのですが、千載一遇のチャンスの元、恥も外聞もかなぐり捨て、かねてよりの『ひばりの朝』についての疑問をぶつけさせてもらいました。
一つは、2巻のtalk.9、富子が落としてしまったコーヒーカップが、想像の中で戻りかけるシーン。過去の記事でもそれについて触れましたが、果たしてあの解釈で正しかったのか、それとも他の解釈があるのか。
そういうことを作者自身に尋ねるのも掟破りなのかもしれませんが、 折角の直接お話ができる機会なので思い切って聞いてみました。するとヤマシタ先生曰く、「あれは『覆水盆に返らず』の比喩」とのこと。

続くtalk.9を読んだときに、初めは意味がわからなかったのが、割れたコーヒーカップが逆再生されるように戻りかける心象風景です。これは何を意味しているのだろうかと。
(中略)
これは、覆水を盆に返そうとしている彼女の心なのだと。「覆水盆に返らず」は英語で言えば"It's no use crying over spilt milk(こぼしたミルクを嘆いても無駄)"ですが、富子はこぼしたコーヒーを元に戻したがっているのではないかと。
(『ひばりの朝』ひばりを通して浮かび上がる人々の話 富子編)

俺氏大勝利
ただ、そのあとにヤマシタ先生は、「決定的に間違った言葉を投げつけてしまった憲人に対し、富子のスイッチは完全に切り替わってしまい、彼がそのあとにいくら彼女に言い寄ろうとそれはもうどうにもならないものなのだ」ともおっしゃっていました。
うん、俺の解釈と正反対。たしかに、結局想像の中のコーヒーカップが戻り切ることはなかったんですよね。戻ろうとして、結局また落ちていく。一線を越えてしまった憲人に、富子の気持ちがもう一度揺れることはなかった。すくなくとも、そのときは。
……一勝一敗のドロー!
で、もう一つの質問。これはヤマシタ先生自身がtwitterでおっしゃっていたことなのですが、

この「気持ち悪さ」とはなんなのか、です。
先生曰く、「富子が憲人と付き合ったこと。それは、富子がもっとダメになる行為」、そして、「愚かな行為に走ったうえで、そこから生まれる幸せオーラをひばりに浴びせかけたこと」だそうです。

でも、数年後の富子は明るくひばりに接していた。「おんなのこ」相手に余裕があった。それはきっと、富子に憲人という恋人ができたから。「女の値段」をつけてくれたのが完一人ではない、自分にはちゃんと「値」がつく。その事実は富子に「女」としての自信を与えたことでしょう。
また、富子のひばりに対する印象は、セーテキギャクタイを受けていることを確信したところで止まっていました。つまり、「不幸なひばり」というのが彼女の印象のラストアップデートだったわけです。「『おんなのこ』でありながらセーテキギャクタイを受けて不幸なひばり」に、「女の値段」がついた自分は大人として声をかけてあげる。
(『ひばりの朝』ひばりを通して浮かび上がる人々の話 富子編)

……半分くらいは当たっている……かな?
本当は、「『悪党の歯』や『MO' SOME STING』などに見られる『痛み』の描写には何か注意していることはあるか」「フキダシの描き方で注意していることは」も質問したかったのですが、あえなくタイムオーバー。つーかほとんど俺しか質問してない。


プチサイン会
すでにこの時点で時計は21時を指していたので、ばたばたとサイン会に。読書会で配られた新刊に、その場でサインを書いていただきました。この座談会の出席者は自己申告のハンドルネームで参加していたのですが、その場の人は皆、こっそりその場で申告して宛名を本名にしてもらっていました。
え? 私?

堂々と「ポンコツ山田でお願いします」と。いや、正直ちょっと恥ずかしかったですが。
ヤマシタ先生には「ポンコツなんですか?」と笑われました。
ちなみに文字が薄くなっているのは、サインがテカテカした紙の中表紙に書かれたため、表紙裏に写ってしまわないよう編集者の方が雑紙を挟んでくれたのですが、表紙裏に写らない代わりにその紙に写ってしまったから。
Oh,god……


といったところで会はお開きとなりました。
非常に貴重な機会をいただき、ヤマシタ先生とリブレ編集部の方々には感謝でいっぱいでございます。とても楽しゅうございました。
でも、あえて言うなら、もっと時間がほしかった! 作品や創作その他についてもっといろいろ喋る時間が!!!
せめてあと一時間、「今夜は生で」どころか「朝まで生で」くらいの勢いでやれたら嬉ションするレベル。『ひばりの朝』についても喋りたかったし、BL作品についても喋りたかった。それこそ、自分のBLの読み方と他の人のBLの読み方の違いとか、もっと突き詰めてみたかった。
普段、突っ込んだ漫画の話を面と向かってする機会がないので、漫画家や編集者といった、日常として、そして仕事として漫画に携わっている人としゃべると、自分一人ではなかなか気づけない話が聞けてとても面白かったのです。
またこのような機会がありましたら、ぜひとも参加したいですわ。いやマジでもっと喋りたかった。



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