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あの時覚えた感動が自分をジャズに突き進ませる 『BLUE GIANT』の話

宮城県は仙台に住む高校生・宮本大は、15の時に初めて生演奏を聴いたジャズにドはまりし、毎日毎日広瀬川の河原で一人サックスを吹いていた。友人らからからかわれても、お金のかかる用品に嘆いても、毎日毎日。初めてジャズを聴いたあの日の衝撃を忘れぬためにとでもいうように。そんな日々が続き、高3の夏にもなり、周囲では受験の足音も聞こえる中、ふとしたきっかけで大はライブハウスで演奏することになった……

ということで、ビッグコミックで連載中、石塚真一先生の新作『BLUE GIANT』のレビューです。『岳』で山を題材にしていた石塚先生が、今度はジャズへと乗り出しました。アウトドアからインドアへ、趣味の振れ幅が極端です。
舞台は仙台。周囲の人間が高校生活を満喫している中、一人黙々とサックスの練習に励む宮本大。高校生でサックスを吹こうと思えば吹奏楽部に入るのが一番の近道ですがそれをせず、学校が終わった後に、どこで入手したのかテナーサックスを持って、近くの広瀬川の土手で吹き鳴らします。晴れの日も曇りの日も雨の日……は楽器に悪すぎるから、陸上部の人間でも自転車で登り切ることのできない通称「オニ坂」の先にあるトンネルの中で練習練習。ジャズに憑りつかれた高校生が描かれています。
私の思うこの作品のなによりの魅力は、演奏シーン、というよりはサックスをしっかりかっこよく描いているところです。管楽器の造形はもはやそれだけで芸術品とさえ思っているのですが、その中でもテナーサックスは、ネックやボディの絶妙な曲線が実に艶めかしい楽器。指の動きに応じて正確にトーンホールを抑えるパッドはボディを縦横に走る連絡棒で継がっていますが、その配列はまるで精密機器。ラッカーが落ちてくすんだ輝きのヴィンテージもいいけど、シミ一つない新品も無論かっこいい。
とまあきりなく続くいてしまうのでここらへんで止めときますが、いくら本物がかっこよくてもそれがマンガでもかっこよく描かれるかと言えばまた別の話。たいていの場合、まさにその造形の複雑さゆえに簡略化して描写されます。けれど本作では手を抜かない。サックスの造形美を存分に描いている。美しさを殺すどころか、漫画ゆえの縦横なアングルでサックスとそれを吹く人間がとことんかっこいい。トンネルの中でサックスを吹く大の一枚絵は、ぞっとするほどきまっています。
人物描写の話もしましょう。とにかく純粋にジャズへと打ち込む大の心意気は彼のセリフの端々にあらわれていますが、その中でもぐっときたのは

オレ…まだまだよくわかんねんだけど… ジャズが大好きじゃんか…
バスケやってたけど… プロになれるともなりたいとも思えなかった。
でも、ジャズは違う。
何百、何千…や、もっともっと。たとえ何万時間の練習が必要でも…… オレはジャズプレーヤーなるよ。きっと…なる。
東京へも行く。ニューヨークへも必ず行く。オレは…
世界一のジャズプレーヤーになる。 きっと。
(p137)

です。
今までとは違う自分の中の手ごたえ。自分自身の思いへの確信。そういうものを抱えて邁進する大の演奏は、それを聴く人に、確かに何かを残すのです。それは言葉に上手くできないものかもしれませんが、大が初めてジャズを聴いたときと同じように、居ても立っても居られないような、強烈で熱い何か。本当に強い熱情は人に伝播する、ということが、絵の説得力によってこちらにも伝わってくるのです。
1巻の最後で大の将来が暗示されていますが、2巻はどのように始まっていくのでしょうか。続刊が楽しみ。
ちなみに、大が作中で口ずさんでいた「モーメンツノーティス」はこれです。

私も好き。



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