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女子高生たちの、平凡で、だからこそ楽しい群像劇『シンプルノットローファー』の話

 私立モンナンカール女子高等学校2年A組。そこに通うのは、普通に普通で普通に変わってるごくごく普通の女の子たち。色々あったりなかったりする学校生活を、楽しく過ごしたり面倒くさく過ごしたり適当に過ごしたり。女子高生たちの日常をさくりと切り取る清新な群像劇……

シンプルノットローファー

シンプルノットローファー

 ということで、衿沢世衣子先生『シンプルノットローファー』のレビューです。何の気なしに買ってみたのですが、これは良いものだ。
 物語としては、本当になんてこともないものなんですよ。女子高生たちのなんてことない日常。それを描いているだけ。巨人は出てこないし、異世界も出てこないし、それどころか恋愛話さえ出てこない。キャラクターの繋がりはあるもそれぞれの話は独立しているから、単行本1冊を通しての盛り上がりも別にない。普通。極めて普通。でも、妙に面白い。
 つまるところこの面白さの源泉は、キャラクターたちがなんだかんだで自分の生活を満喫しているところから出ているのかなと思います。厄介なこともあるし面倒くさいこともある。腑に落ちないこともあれば不可解なこともある。でも、そういうのを色々ひっくるめて、彼女らは人生で3年間しかない高校生活を楽しんでいる。派手じゃなくてもいい。どんでん返しがなくてもいい。なるべく小さな幸せとなるべく小さな不幸せをなるべくいっぱい集めたような生活は十分楽しいし、その楽しさを実感して生きるさまは、傍から見てても楽しくなる。そういうことなんじゃないかと。
 その意味で、方向性としては『ヒャッコ』に似ているのかもしれません。あっちの方が色々派手ではありますが、基本的には日常の範疇で収まっていて、そこに登場するキャラクターはどいつもこいつも楽しそう。キャラクターを見て楽しむのではなく、キャラクターと一緒になって楽しむ。そういう作品。
 この作品で特徴的なのは、登場するクラスメート全員にちゃんと名前やらなんやらの設定があることです。上で「キャラクターの繋がりはある」と書きましたが、あるお話でモブとして登場したキャラクターが他のお話では主役になっていたり、その逆もまたしかり。1冊読み通した後にもう一度頭から読むと、そこここに見覚えのあるキャラクターがいるのです。巻末にクラスメートの一覧があるので、名前等の確認もできます(ただ、描き分けの関係で少々見分けづらいですが)。
 本作は、クラスメート全員が仲がいいという感じはありません。わりと緩めの繋がりのグループが並立しているように見受けられます。そしてそれは、私たち読み手にとっても同様だった(もしくは現在進行形で)ことでしょう。学生時代を振り返って、クラスメート全員と仲が良かったという夢物語な思い出を持っている人はそういないと思います。いじめだなんだという深刻な話まではいかずとも、なんとなく仲がいい子となんとなくそりが合わない子がなんとなくグラデーションになって見えていたはずです。でもそれは、クラスメートの誰にとってもそうだったわけで。
 自分にとってのグラデーションとはまた別のグラデーションを、なんとなくそりが合わない子も持っている。40人いれば40通りのグラデーションがあるのです。ある人にとってはone of themのクラスメートも、他の誰かにとってはonly oneなのかもしれない。誰もが固有のグラデーションの中で固有の名前を持っている。
 一話ごとに主役が交代する本作は、そんな当たり前の事実を気付かせてくれます。みんなそれぞれ名前を持って、それぞれの付き合いをそれぞれのグラデーションの中で送っている。少しずつ覗くそのグラデーションが、キャラクターたちの存在感を増しているのでしょうか。
 私が好きな話は、prologueと最終話の『パラダイス』です。特に、夏休みのだらだらした部活を舞台にした最終話の最後のセリフ、「今日は楽しかったなー」は、その話中で展開された行動が、自分は体験したことがないのにふとそれが記憶から思い出されるかのようで、とてもよいです。夏の夕暮れって、妙に郷愁をくすぐられる。
 少々地味な作品ではあるのですが、是非手に取って一読してみてほしいのです。これには滋味がある。 


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