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漫画の話です。

『ゴルゴ13』に見る、コマ分割による情報優先度の変化の話

ゴルゴ13』と言えば、巻数が多い作品、連載が長寿である作品として、『こち亀』と共にしばしば名前が挙がりますが、連載が長いだけあって、様々なコマ使いが見られます。今日はその中で、なるほどと思った一つをご紹介。


ゴルゴ13 コンパクト版 88巻 p104)
これは、あるキャラクターが読んでいる新聞をアップにしたコマ群です。普通に考えれば一つのコマで描いてしまえばよさそうな新聞を、わざわざ三つのコマに分けて描いています。さて、いったいどんな意味があるのでしょう。
この三つのコマ群のポイントは、それぞれのコマに重要な語句が配されていることです。一つ目には「世紀の合併」「金融業界に衝撃走る!!」、二つ目には「東亜」「産業界は大歓迎」、三つ目には「四菱」。こうすることで、それぞれの語句の重要度を一律にしている。そういう効果があると思うのです。
もしこのコマ群が、新聞全体を一つのコマで収めていたら、まず読み手の目に入ってくるのは、一番右側にあり、そして縦書きである「金融業界に衝撃走る!!」という情報です。コマは右から左に読むという日本の漫画の基本的なルールから、まず「世紀の合併」と「金融業界〜」が優先的に処理される情報として選択され、さらに同じ右側に書かれた情報であっても、視線はコマを追って右から左に移動するため、左から右へ読むことを要請する(=視線の動線に逆らう)横書きの文章よりも先に、縦書き文字の方が優先的に認識されるためです。
そしてそれは、裏を返せば、一つのコマの中で情報に優先順位がつき、その他の情報についての認識が弱くなる、ということでもあります。複数のキャラクターが写っているとか、複数のフキダシがあるとか、そのように情報が個別に存在していることが明示されていれば、情報の優先順位は均されますが、「一枚の新聞」というそれぞれの情報が明確に区別されない状況では、優先順位はつかざるを得ません。これは、フキダシで言えば、その中の言葉全てが重要な情報というわけではなく、特に重要とされる情報だけを印象深く憶えていたり、キャラクターの絵も、表情や仕草など、意味を持つ情報はよく憶えていても、それ以外のたとえば服の皺などはさして記憶に残らない、というのと同じことです。情報処理の効率化のために、認識した情報にはある単位の中で優先順位がつけられます。ある単位とは、コマであったり、フキダシであったり、具体的な絵であったりです。
で、このゴルゴのコマ群の場合、一つのコマの中の一枚の新聞という単位を、一枚の新聞を区切った三つのコマとして単位を分割し、それぞれに情報を配しています。こうすることで、各キーワードはそれぞれの単位の中で優先順位を持ち、各キーワードが優先的に処理されるべき情報として認識され、作中で読み手に意識してもらいたいキーワードをもれなく伝えられるようになるのです。
一見するだけでは理由の分からないコマ割も、膏薬よろしく理屈をつけてみればそれらしく思えるものです。こんな解釈、いかがですかね。


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