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ピアノでつながるすれ違いの二人『ゼッタイドンカン』の話

バイエルが終った程度の腕前にもかかわらず、それでも部内では一番上手いからと、合唱部での伴奏係を押し付けられた女子高生・瀧歌音。音楽室のピアノで練習するも一向に上達せず、ひどく落ち込んでいたのだが、そこに現れたのはクラスメートの男子・中森。部屋に入ってくるなり放言を連発する彼に歌音は眉を顰めるが、ひょんな流れで彼の家でピアノの練習をすることに。教室での寝てばかりの姿とは裏腹のピアノを弾く中森に、歌音は次第にトキメキを覚えるようになる。でも、鈍感な中森に彼女の想いが届くのは、高校の三年間じゃぜんぜん足りなくて……

ゼッタイドンカン

ゼッタイドンカン

ということで、宇仁田ゆみ先生『ゼッタイドンカン』のレビューです。
ピアノは下手だけど耳(音感)は抜群にいい女の子と、鈍感で変人だけどピアノに対しては妙に真面目な男の子。高校生の甘酸っぱい初恋話かと思ったら、よもやよもや、それから10年以上も経つ長丁場な物語となっています。全1巻ですから、その歳月を全て描いている紙幅はなく、数年ごとの二人の関係の変化を一話ごとに切り取っています。二人の関係も、高校時の歌音の片思い、大学に入った中森はすぐにさらっと彼女を作る、それを見て歌音は中森を諦める、でもその内中森も彼女を好きになる、その時には歌音にも彼氏ができている、と見事なすれ違いっぷり。
彼氏がいるのに中森に会うともじもじしてしまう歌音は可愛いし、自分の気持ちを自覚した後にどうそれを伝えようかと悩む中森に共感せずにはいられない。
でもすれ違いの振り幅も少しずつ狭まっていって、彼と彼女の気持ちはようやく重なる……。というのが一冊の半分。さらにもう半分で、重なる=恋人の次のステップ、「結婚」や「出産」なんかでの二人のずれっぷりが描かれています。
高校でようやく初恋と、恋の目覚めの遅い歌音。だからというかなんというか、その気持ちを一途に忘れない。どのくらい一途かと言えば、高校の時に中森がぽろっと言った「そんなに耳がいいんだから調律師になればいいのに」という言葉を真に受けて、本当にその道に進んでなってしまうくらい。で、すれ違いがありつつも付き合うことになって、結婚して、子供が生まれてもその一途さは変わらない。中森の気持ちがわからなくて色々振り回されることもあるけど、振り回されるのは、自分の「好き」という気持ちが相手にどう伝わっているかわからないから。揺らがない「好き」という軸があるから、それを中心に振り回される。
そして相手の中森も、鈍感で変人なのは確かだけれど、人並みに嬉しい悲しい気恥ずかしいの感情はある。歌音に自分の気持ちを伝えるのにタイミングは計ろうとするし、計りそこなえばがっかりする。上手く伝えられたら、もちろん嬉しい。中森はマイペースだけど、ペースは人と違うかもしれないけど、歩いていく方向は歌音と同じだったりする。
変だろうと普通だろうと、同じ方向を向いて歩いていける二人は、それだけで一つの幸せです。
ある話の中で、歌音とその高校来の友人が談笑していて、歌音が中森と付き合っていることを知った友人は、中森への愚痴とも惚気ともつかない歌音の話を聞いて「でもお似合いだ!」と心の中で呟きます。まあなんですか、歌音が中森を変だと思おうと、結局そんな彼が好きで、そんな彼と付き合っている歌音は中森とお似合いなのですよ。"My better half"というべきか、「破れ鍋に綴蓋」というべきか、片一方が変だろうと普通だろうと、両者とも変だろうと普通だろうと、相思相愛である「お似合いの二人」はそれだけで特別な、他の何者にも代えがたいものなのです。いいね。羨ましいね。
歌音がどんどん美人になっていくのに伴い中森爆発しろ係数も飛躍的に上昇していくのですが、それはそれとして、読んでていいなー幸せだなーと思える作品です。


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