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1000年前の情感が現代の漫画で蘇る『春はあけぼの 月もなう 空もなお』の話

平安中期の女流文学者・清少納言の著した名作古典『枕草子』。季節の折々や日常でふと思ったことなどを書きやった「をかし」の世界が、1000年の時を経て現代の息吹を吹き込まれる……

春はあけぼの 月もなう 空もなお (Next comics)

春はあけぼの 月もなう 空もなお (Next comics)

ということで、サメマチオ先生『春はあけぼの 月もなう 空もなお』のレビューです。
誰もが中学国語の時間に習ったであろう『枕草子』。「春はあけぼの」で始まる第一段は、「つれづれなるままに、日暮らし硯に向かひて」で始まる『徒然草』や「ゆく川の流れは絶えずして」で始まる『方丈記』と並ぶ日本三大随筆のあまりにも有名な冒頭ですが、それから始まる古文を、原文を載せつつ、その文章が思い起こさせる情景を現代風にアレンジして漫画にしているのが本作です。
1000年前の世界などと言えば、おじいさんのおじいさんのそのまたおじいさんの……と果てなく昔のことのようですし、実際その通りなのですが、1000年前と言えど同じ人間、彼ら彼女らの感じたことを追想することは、決して不可能ではありません。春の明け方に、夏の夜に、秋の夕暮に、冬の早朝に、なにかしら感じるところは誰しもあるでしょう。その「なにか」は皆が皆まったくの同一ではありませんが、目を凝らしていれば、いや、凝らしていなくともふとした時にピントが合えば、その人なりの「をかし」が見えてくる。
本作は、そんな『枕草子』の現代解釈なのですが、それだけというわけではありません。『枕草子』から約20段を引用しそれぞれをアレンジしているのですが、全て独立しているのではなく、一人の女性をメインの語り部としています(彼女とは関係のない話もありますが)。彼女の目を通して見られる世界に、原文で語られる『枕草子』がオーバーラップし、1000年前の人間の思いと現代の人間の想いが二重写しで浮かび上がる。そしてそんな日々を日記に書く彼女。そんなのがうっすらとしたストーリーとして存在しています。現代の清少納言をこじんまりと描いたお話、と言ってもいいかもしれません。『枕草子』の原文とそのストーリーが重なる最後のエピソードは出色の出来映え。
原文に対して註釈や現代語訳がないため、それだけでは意が通じないところも多々ありますが、漫画による現代の人間の感情表現でなんとなく想像はできます。むしろ、その想像こそがいいのです。漫画の登場人物たちは言葉少なで、主に絵と原文で内心などは表されているので、読み手は絵と原文両方をヒントその情景を想像します。1000年前の女流作家による随筆と、現代の漫画家が解釈し構成する漫画と、そのあわいにある読み手である私が想像する情感。普段なじみのない古文だからこそ、頁を繰る手も自然ゆっくりになり、思いを馳せる余裕も増すのです。
こちらで試し読みができますが、できれば本を手に取って、ゆっくりと読んでほしい。そう思える作品です。


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