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ボールペンで蘇る日本の神話『ぼおるぺん古事記』の話

現代から1300年も昔に作られた日本最古の歴史書、古事記。日本という国土がどのように生まれ、どのような神が世界を形作り、どのようにして国となっていったのか。それぞれの国や文化がもつ起源の伝説。日本のそれは、神さまとも思えない人間臭い神々が、愛し愛され、殺し殺され、自由に、わがままに、残酷に、世界を作っていきます。イザナキ・イザナミスサノオヤマタノオロチ因幡の素兎など、どこかで一度くらいは耳にしたことがある言葉の原典が原文のまま、でもボールペンによる優しい絵と一緒に語られていきます……

ぼおるぺん古事記 (一)天の巻

ぼおるぺん古事記 (一)天の巻

ということで、こうの史代先生『ぼおるぺん古事記』のレビューです。古事記と言えば学校の歴史の授業で誰しも一度は耳にしたであろう、日本書紀と並ぶあまりにも有名な史書。というか伝説集。というか神話。断片的な内容や固有名詞なんかは、漫画や小説などの創作物で下敷きにされたりしていますから、なんとなく見覚え聞き覚えがある人も多いでしょう。でも、全編通したストーリーを知っている人となると、ぐっと減るのではないでしょうか。かくいう私もその一人、スサノオヤマタノオロチを退治するところくらいまではなんとなく知っていても、そこからどうやってオオクニヌシが登場するんだっけ、因幡の素兎は誰の話だっけ、海幸彦山幸彦はどうだっけ、そもそも天皇はどの神の直系ってことになってるんだっけ、と話が進むにつれて印象がおぼろ。
それがなぜかと考えれば、ぶっちゃけた話、今の常識から外れた(神話だから当然だけど)話を、それはそういう当たり前ものとして書かれると、おいてけぼり感がとても強いのですね。なものだから、途中でよくわからなくなるし、そもそも読み通した覚えがない。スサノオヤマタノオロチ退治なんて冒頭もいいとこなのに、はっきりしてるのはそこどまりですよ。
でも本作はいい。わかりやすい。読み通せる。上で書いたように、お話自体は古事記そのまま。本文に現代語訳はなく(註釈はあり)、書き下し文にした原文だけ。でも、そこにこうの先生の手による絵があると、途端に読みやすいのです。大まかなストーリーは絵で表現されていて、あとは中学レベルの古文の知識があればたいていの文章の意味も詳細にとれる。絵の力は偉大ですね。でも、それ以上に読みやすさを生み出しているのは、ページあたりでのストーリーの遅さです。遅いのがいいのかよ、と思う向きもあるでしょうが、それがいいのです。古事記と言えば、日本の国の成り立ちを著した書物。その内容も、通り一遍のファンタジーではなく、昔の人間が国というもの、世界というものの成り立ちをどのように説明しようとしたのか、その指紋が色濃く残っている物語なわけです。そういうものの意味を味わうためには、話の流れにばかり目を向けるのではなく、登場人物のこのような振る舞いにはどのような意味があるのか、このような出来事があったとする設定の背後にはどのような観念が? などとゆっくり読み解く、深読みすることが大事だと思うのです。
深読み。一般的な物語はただ味わえばそれでいいと思うのですが、神話は深読みしてナンボではないでしょうか。ある登場人物の造形や出来事が、現代の常識や文化とどうつながっているか。あるいは他の国の神話と共通点があるのではないか。神話学なんてのがあるくらいですから、太古より伝わってきた説話をどう解釈するかはアカデミックな行為であり、同時に多くの人をその道へといざなってきた知的行為です。なんとなく堅苦しいもの、古臭いもの、と神話を遠ざけてきた人にも、本作は神話の深読みへの道を開いてくれます。
直近の連載分についてはこちらで読めますので、まずはどんなもんかと雰囲気を見てみるのもいいでしょう。
こうの史代【ぼおるぺん古事記】
一度読んで、またしばらくすると、「ひょっとしてあれはこういうことなんじゃないか」と思いつきまた頁をめくる。神話にはそんな深みがあり、この本にはそれを容易にさせる気安さがあるですよ。2巻も今月中に出るようで、いと嬉しきかな。


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