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服にまつわる苦悩と妄想と黒歴史と 『裸で外には出られない』の話

①住環境と仕事場の境目が無く②服装規定が一切なく③どうせ人にも会わないし疲れてるしもうええやん……となりがち、と服装堕落化三重苦に苦しむ漫画家・ヤマシタトモコ。著者の服に関する怠惰と欲望と妄想と苦悩が渦巻くのを目の当たりにすると、「ああ…女性っていろいろ大変なんだな……」と思わずにいられない。オシャレ? NO!! 実用的? NO!!のファッションエッセイコミック。満を持して登場。他、短編も三本収録。

裸で外には出られない (マーガレットコミックス)

裸で外には出られない (マーガレットコミックス)

ということで、ヤマシタトモコ先生『裸で外には出られない』のレビューです。
服に関することをつらつらと描いたエッセイコミック。自分やその周辺の黒歴史ファッション。仕事中の服装に気を遣わなくて済む漫画家ゆえの悩み。「美しい女性がダサい服を着る」という自分好みの妄想。男性にはわからぬ下着についての諸問題。好きな男子ファッション。そんなこんなを描いてます。
自分やその周辺のアレなところを自虐的にギャグにするこの手のエッセイは、描いてることがアレなのをわかった上で開き直ってネタにし、それでもなおそこはかとない含羞を残して、というのがあって初めて笑えるものですが、この作品に漂いまくってる含羞・後ろめたさ・こんなこと描いて大丈夫かしらん→でも描いちゃう!→ああでも……の終わりないスパイラルはもうたまらないです。他人の目を意識する自意識と、自分の現在と過去と未来に苦悩する自意識と、自身の内奥でふつふつと萌え妄想に沸き立つ自意識と、そんなようなもんがページからにじみ出てきて、まあゲラゲラですね。
多かれ少なかれ、服装については誰しも成長するどこかで躓いたり転んだり悩んだり失敗したり大失敗したりしたことがあるものだとは思いますが(ちなみに自分の黒歴史は、手書きのドクロが裾周りにびっしり描かれた真っ赤な長袖ワークシャツ。中学生の俺はなんでアレを買ったんだ)、それらの経験を基に服に関するこだわりってのはできてくるのでしょう。そのこだわりとは、自分が着るものであったり、異性に着てほしいものであったり、特定の誰か(想像上の人物でも可)に着てほしいものであったり。ただ、それはこだわりであるだけに、他人に理解してもらうのが難しいということもしばしばだし、そもそも表明すること自体が恥ずかしいこともしばしば。それをここまであけすけにかつ面白く描けるんだから、ヤマシタ先生ハンパない。
自分が一番好きなやり取りは、OL的服装に憧れる友人Kのために、手持ちの服やら小物やらを使って彼女をむりくりOLっぽいファッションに仕立て上げようとする中、ヤマシタ先生の服の中からチュニックを見つけた友人Sが
「OLといえばチュニック!ていうかヤマシタなんでこれ買ったの」
「とちくるったんだよ!!」
ヤマシタ先生のこの手の言い回しはとてもステキだと思います。自分も具合の悪い質問をされた時に使いたい。とちくるったんだよ!!
とまれ、ファッションは迷宮。正解がみつかる気がしない。ヤマシタ先生とその友人達(おおむねアラサーの女性)が声を揃えて言うことには、「いまだにファッションとかわっかんない!!」。

「魔法使いが現れて「君にいちばん似合う服装はこれだよ!」って言ってくれたら一生その服装でいい」
「自分もであります」
(p11)

なんというか、ファッションに対する憧れと諦めがこれほど煮詰まったセリフも無いだろうな、と。自分に似合う服を着たいけどそれを見つけられる期待は皆無なのでいもしないもの頼み、という。まったく業が深い……。
エッセイコミックとしてかなり出色の出来。第一話の試し読みがこちらでできるので、まずは読んでみてたも。



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