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ヤマシタトモコの描く、大人の心地よい友達づきあいの話

気がついたら既刊が全部そろってるヤマシタトモコ先生の作品群。

サタニック・スイート (アフタヌーンKC)

サタニック・スイート (アフタヌーンKC)

多くは読み切りのBLなのでけっこう幅広いタイプの話が揃っているのですが、その中で私の好みに嵌りやすいタイプはどんなのなんかなーと考えてみると、ある種の傾向があるようです。どうやら、大人たちの友達ライクな人間関係(特に同性間)が(それがメインでなくとも)描かれていると、好みに嵌りやすいようなのですな。
たとえば珍しく長編(といっても全1巻)の『くいもの処明楽』とか、『ミラーボール・フラッシング・マジック』収録の『エボニー・オリーブ』とか、『ジュテーム、カフェ・ノワール』収録の『cu,clau,come 食・喰・噛』や『ジュテーム、カフェ・ノワール』とか。『YES,IT'S ME』収録の『YES,IT'S ME』とか。そこらへんの作品は、ふとした時に読み返したくなるです。
じゃあなんでそういうのが好みに嵌るのかと考えてみると、そこで描かれる大人たちの人付き合いの距離感がとても心地よく、いっそ憧れさえ覚えるからなのですな。
この大人というのは、言い換えれば非学生ということで、つまりは何らかの形でお金を稼いでいる人たちです。一般的な会社勤めを明確にされている人は少なく、もっぱらフリーランスの人間が多いのですが、それでも学生なんぞよりはよっぽど暇は少なくやることは多い。突然の用事で予定が潰れることもしばしば。学生じゃなくなるとそれがわかる。でも、ヤマシタ先生が描く大人たちは、そういう合間を縫って友人たちを会っています。で、その会い方もこう、気張って予定を空けるというものではなく、なんとなく時間ができたからふらっと会うとか、たまたま会って「よ、久しぶり」みたいな。言うなれば幼馴染がそのまま大人になったような気軽な関係(実際幼馴染という関係は多いのですが)。友人関係というものに私が持つ(と思しき)何かしらの理想像に重なるのでしょうかね、こういう関係性が。
でも、私の思う大人の友達づきあいの心地よさは、もうちょっと奥まで考えられる。
たとえば『エボニー・オリーブ』。この話のほとんどがアラサー女子三人のだべり場なのに、その中の一々の会話がじんわりくる。
一応メインになっている八田は、友人である二人、大椋と津々木に尊敬とも憧れともつかない感情と、それから生まれる軽い劣等感を抱いている。

ともだち
大椋はうつくしい
(中略)
津々木はもてる
(中略)
ひきかえわたし
普通 …だ
ミラーボール・フラッシング・マジック p161〜166)

仲のいい友達には、きっと誰しもそういう感情を抱く。でも、それは多分、相手も然りなのだ。八田が二人に自分にないものを認め、尊敬し、憧れるように、二人も八田に自分にないものを見つけ、そこを尊敬し、憧れている。二人が八田に見つける「自分にないもの」は、きっと二人で異なるものだ。相手への憧憬と自分への軽い劣等感。それらが相補的に繋がり合って、相手に対する配慮や、自分ももうちょっと頑張ろうかなという気持ちなんかが生まれる。
たぶんそういうのが、仲のいい「大人」の友達づきあいなのだと思う。もっとがつがつしてて、そういう感情に抑えの利かない「子供」の友達付き合いとは違うのだ。
「子供」のつきあいは、『BUTTER!!!』や『イルミナシオン』収録の『ラブとかいうらしい』、『恋の心に黒い羽』収録の『どの火をこえてこい』なんかに見られる。そういうのが悪い訳では全然ないし、そういう作品にはそういう作品の面白さがある(実際、挙げた短編2作はかなり好きな部類)。でも、「子供」のつきあいを見てて感じるのは、心地よさではなく昂ぶり。面白さの種類が違う。ついつい見返したくなるのは、「大人」の友達づきあいなのだ。

もちろんそういう方向性とは違う好きな作品もあります。前述したように『ラブとかいうらしい』や『その火をこえてこい』、『ばらといばらとばらばらのばらん』(『イルミナシオン』収録)なんか、昂ぶる「子供」のつきあい(友達づきあいとはちと違う作品だけど)が面白いし、『Re:hello』(『恋の話がしたい』収録)や『魔法使いの弟子』(『ジュテーム、カフェ・ノワール』)なんかの、おっさんと少女という取り合わせの作品もいい。群像劇の『ミラーボール・フラッシング・マジック』や『あの人のこと』(『イルミナシオン』収録)もよい。『イッツマイチョコレート』(『恋の心に黒い羽』収録)や『夢は夜開く』(『YES IT'S ME』収録)は他との類似の見つけづらい面白さ。『ドントクライ、ガール』(『ドントクライ、ガール』収録)のようなギャグ漫画おいしいです。
まあそんなこんなで、いろんな種類の人間関係と面白さのあるヤマシタトモコ先生なので、未読の方はBLということにさして抵抗が無ければ、短編にも手を出すことをお勧めいたします。
私としては、非BLの『ミラーボール・フラッシング・マジック

ミラーボール・フラッシング・マジック (Feelコミックス)

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BLがOKなら『イルミナシオン』
イルミナシオン (mellow mellow COMICS)

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『恋の心に黒い羽』
恋の心に黒い羽 (MARBLE COMICS)

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あたりが、お勧めの単行本です。


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