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幸福を知らない少女が人間臭い妖怪達と出会ったら 『タケヲちゃん物怪録』の話

晴れてピカピカの女子高生になったタケヲちゃんこと稲生武夫は、高校生活と一緒に親元の広島を離れて東京で一人暮らし。でもそれは、親に迷惑をかけないように逃げたというもの。ある事情・・・・から世界で一番「不運」な女の子になってしまったタケヲちゃんの身に降りかかる不運は、本人だけでなく周囲の人間にも被害が及んでしまうのです。上京してからも不運続きのタケヲちゃん、暮らす予定だった寮も書類の不備で入居する事ができず、当座はここでと紹介されたアパートは、近所でも評判の妖怪邸。はてさて、タケヲちゃんの高校生活はいったいどうなってしまうのでしょう……

ということで、ゲッサンで連載中、とよ田みのる先生の新作『タケヲちゃん物怪録』のレビューです。タイトルや登場人物の名前などからも推測できる通り、「稲生物怪録」という江戸時代の物語を下敷きにしてます。下敷きというか、とっかかりというか。
主人公のタケヲちゃん、体育館で入学式に出席すれば天井からライトが落下し、机で弁当を食べれば椅子の脚が折れ、道を歩けば車に水を跳ね散らかされ、バナナの皮を踏めば滑って近くの店のガラスに頭から突っ込む。ギャグで描かなければギャグじゃ済まない不運に見舞われ続けるという不運三昧なのですが、物心ついた時からそうだった彼女は、不運から身を守る術と、心を守る術を身に着けていました。前者は、ヘルメットや防刃ジャケット、プロテクター等の物理的防御。後者は、人とは親しく付き合わず、幸せなんてものを知らないようにすること。物心ついた時からそうだということは、タケヲちゃんは生まれてこの方幸福というものを味わった憶えが無いのです。

「幸福」って何だろう?
とタケヲちゃんはよく考えます。
ある事情・・・・でタケヲちゃんは世界で一番「不運」な女の子だったので、今までに幸福を感じたことが無かったのです。
(1巻 p3)

いくら大事なもの、素敵なものとは言われても、それがどんなものなのか知らなければ欲しがりようが無い。幸福を知らないタケヲちゃんは、だからといってひねくれたりもせず、人には気を遣う、真面目に生きる、ただ無表情で世間ずれした女の子として育ちました。
折角新しい環境に入り、友達ができようかという段になっても、タケヲちゃんに降りかかる不運を目の当たりにすれば彼女らはすすっと身を引いていきます。それを見てもタケヲちゃんは悲しむことなく、それどころか「良かった、巻き込まずに済みました…」と安堵するほど。
不運は途切れることを知らず、彼女が暮らす羽目になったのは近所でも評判のボロアパート。ボロだけならまだしも、妖怪が出ると悪評名高い妖怪邸。入居したその夜から、ドアから部屋がいっぱいになるほど巨大な腕が伸び、彼女をむんずと掴む。ああ哀れ、タケヲちゃん。幸薄き彼女の身にまだ責め苦を負わせるか。
ところがどっこい、この妖怪たちが何というか、人間臭くも間が抜けている。
彼らが人間を驚かすのは、驚いた人間が出す「陰の気」を食べるため。でも、不幸慣れしているタケヲちゃんは妖怪如きのおどかしでは露とも動じず、彼らは焦るばかり。30日間の奮闘もむなしく一向に驚くことのなかったタケヲちゃんに、ついに妖怪の頭領山本六郎左衛門は土下座をして「もう勘弁してください」と彼女に退去をお願いする。けれど、その時の一悶着でついにタケヲちゃんはびっくりし、彼女から出た「陰の気」は山本が今まで食べたどんな「気」よりも美味だった。
彼は言う。「儂にはお前が必要なのだ」
そう。タケヲちゃんは、この時、生まれて初めて誰かに必要とされたのです。
今まで不運を一身に受けてきた彼女。そんな彼女に幸福を感じさせたのは、誰あろう妖怪たちでした。こうしてタケヲちゃんと妖怪たちの、奇妙な同居生活が始まっていくのです。
妖怪たちは、人間を驚かすことで「陰の気」を食べる。でも、極上の「陰の気」の持ち主であるタケヲちゃんを驚かすためには、ほかの人間に対するそれとは違い、彼女が今まで味わった事のない感覚、すなわち幸福を感じさせなくてはいけない。美味しい「陰の気」は食べたいけど、そのために今まで考えたこともないことをしなければいけない妖怪たち。基本的には迷惑な妖怪のドタバタの中で、たまに訪れる予期せぬ幸福に驚くタケヲちゃん。このデコボコなスラップスティックが、ベッタベタなわかりやすい感情表現や感情の推移(いつの間にかタケヲちゃんが喜ぶことを嬉しがるようにあるけどそれを認めたくない妖怪のツンデレぶりとか、最初は怖がっていたけどふとしたきっかけからタケヲちゃんと仲良くなろうとするクラスメートとか)と共に描かれるので、いい意味でコロコロとかボンボンぽい。
タケヲちゃんが不運を背負うことになったある事情・・・・など、まだまだ伏線は貼ってありますが、今後はそれをどう活かしていくのか、楽しみに待ちたいと思います。



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