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漫画の話です。

「楽しい」が詰まった少年少女の日常 『がらくたストリート』の話

日本のどこぞにある芦原市。そこに住む素直を絵に描いたような小学生・御名方リントの周りには、可愛い幼馴染や一癖も二癖もある同級生、神出鬼没の兄、兄と弟に挟まれ気苦労の絶えないたぶん一番普通な姉、土地の民話を求めてやって来た大学教授、果ては宇宙人や土地神様まで現れて。そんな日々を目いっぱい楽しみつつ、リントの日常は回っていく……

がらくたストリート 1 (バーズコミックス)

がらくたストリート 1 (バーズコミックス)

ということで、山田穣先生『がらくたストリート』のレビューです。表紙の野暮ったさでちょっと損をしてる感があるのですが、中身はもっと、なんというかこう、肩の力の抜けた好き勝手感があふれている、リントと彼の兄姉を中心に、彼らの何でもないようで何かある日常を実に楽しく描いている作品です。そう、なによりこの作品の魅力は、「楽しく描いている」というところだと思うんですよ。
この場合「楽しい」のは、作者と作中のキャラクター両方で、作中で描かれる緑の多い片田舎の情景や峠を攻める車とバイクの攻防、登場するキャラクターとその人間関係、本筋に何も関係しない薀蓄など、服装や乗り物などのちょっとした小物など、俺が描きたいものをぶちこんでるぜ!という作者の気持ちがひしひしと伝わってきますし、また、その結果生まれているキャラクター達も、その作品世界を存分に楽しんでいる。素直な小学生のリントたちは世界を疑わず全力で楽しみ、宇宙人も神様もまるっと受け入れ楽しみます。姉や兄など、年齢が上がるにつれ世間ずれもし、身の回りの既知の領域が広がっていってしまうのですが(彼らのパートでは、宇宙人や神様は直接登場しません。ただし1巻の時点では)、その中で楽しむ術を同時に身に着けていく。何かおかしなことが起こる日常じゃないけど、だからこそ楽しめる日常。
不思議を受け入れて楽しむリントの日常も、日々の中に自分の楽しみを見つけることのできた兄たちの日常も、どちらも羨ましくなってしまいます。いわば楽しさの箱庭感覚。理想の楽しい空間、こうありたい、あるいはこうあってほしかった空間がそこに形作られているような。
良く晴れた初夏、自転車に乗って山道を駆け上る。棒を振り振り林の中を散策する。町の古老の話を麦茶を片手に聞く。学校のプールで競争。そんな経験なくてもなぜか思い出すことができそうな、ある年代が共有する想像の子供の頃の体験。その時代に生まれてないのに映画『三丁目の夕日』を見て懐かしいと感じるようなもんですか。そんな直接知らないはずのノスタルジーの中にSF(少し不思議)も入り混じって、読んでて心地よいのです。
書店ではあまり見かけないバーズコミックスですが、機会があったらどうぞ読んでみておくんなまし。


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