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漫画の話です。

ポップな女の子たちの心がざわざわする物語 『空が灰色だから』の話

極度の上がり症の女の子。友人から絶交された女の子。大学デビューに失敗続きの女の子。幼馴染に邪険にされる女の子。体格や性格のせいで男子呼ばわりされる女の子。どうにもなにかがうまくいかない女の子たち(一部例外あり)の、どうにもなにかがうまくいかない物語たち……

空が灰色だから 1 (少年チャンピオン・コミックス)

空が灰色だから 1 (少年チャンピオン・コミックス)

ということで、阿部共実先生『空が灰色だから』のレビューです。実は、この作品についてはまるで知らなかったのですが、昨日からtwitterのTL上で何度か名前を見かけ、物は試しと買ってみたのですな。それが、意外というかなんというか、よかったのですよ。
体裁はオムニバス。主に女の子を主人公に据えて、彼女らの歯車の噛み合わない物語を短編としてまとめています。歯車が噛み合わないと言ってもそれは、空回りすることだったり、自分一人だけ全然歯数の違うギアだったり、そもそも噛み合ってくれる歯車が周りにいなかったりと、読んでて笑えるものだったりあるいはいたたまれなくなるものだったりしますが、どれも共通しているのは、単行本帯にも書かれている「心がざわつく」ということ。笑うにしてもいたたまれなくなるにしても、読んでるこちらを脅かすよう。可愛い絵柄のくせしてのっしとこちらの心の中に踏み込んでくるようなその感覚は、女の子がスポンジバットで殴りかかってくるかと思ったらその中に鉄心が入ってた、みたいな。いやそんな経験はもちろんないけれど。
たとえば第2話「お前は私を大嫌いなお前が大嫌いな私が大嫌い」。女子高生・明はある日、友人の森永から絶交宣言をされた。その容姿や性格から、もともと周囲の女子からはやっかまれていた森永だったので、明は他の友人二人と彼女の愚痴で盛り上がる。はじめは調子よく喋っていた三人だけど、次第に一人ヒートアップしだす明。引き始めている二人を尻目に、「なんでそんなことまで知ってんの?」「それは言ったらダメなことじゃね?」と思えることを際限なく論う。それはもうストーカーの域。言葉が止まらない明。恐れ戦く二人。暗い情念が明を中心に渦を巻くけれど、その最中に挟まれる、他の友人と楽しげに話す森永の笑顔は、さながら大渦に関係なく呑気に浮かぶ樽の如し。この対比に、ひどくざわざわします。
人と人とか、人と社会の歯車って、普段はしっかり噛み合ってるようでもふとしたことで簡単にずれたりして、そのずれに気づいて直そうとしてもどんどんひどくなるばかりで、もうどうしようもなくなってうわーうわーと叫びそうになったらまた元に戻ったりして、いやいやそんなことなく結局周りから完全に外れるとこまでいっちゃったりもして、はたまたなんか中途半端なままに変なところで引っかかって回り続けたりもして、こんな不条理にいったいどうしろと、なんて思えたりする。第3話「イチゴズ オブデスティニー」の言葉を借りれば、「運命という名の」「ゲスな奴」は、「自分の血と肉と骨で作られたこの手できり拓」こうとしてもその努力は無為に終わったりする。そんな抗おうとしても抗いきれない不条理さに巻き込まれたキャラクターたちが、ポップな絵柄で時に愉快に、時に惨めに描かれているのです。
めちゃくちゃ面白いからみんな読めよ!というテンションになる作品ではないのですが、ポップな糖衣に包まれた苦さ・えぐみが妙に後引き、何度となく手が伸びそうな感じ。作品の方向性は違いますが、読んだ後に後ろ髪が引かれる感じは、ふみふみこ先生や市川春子先生の作品に似てる気がします。
試し読みがないのが残念ですが、イラストや漫画がpixivでアップされていますので、そちらのリンクを貼っておきます。絵柄の感じはつかめると思いますので、この絵でなんか不穏なお話を描くと思ってください。そそるでしょ。
「abt」のプロフィール pixiv


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