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森薫十年の軌跡『森薫拾遺集』の話

森薫拾遺集 (ビームコミックス)

森薫拾遺集 (ビームコミックス)

『エマ』でのデビューから10年を迎えた森薫先生による、今まで単行本に収録されることのなかった短編漫画やイラスト、書店のペーパーをこれでもかとぶち込んだ作品集。
圧巻なのは、全編に立ち込めるむせ返るほどに濃密なフェティシズム。メイド、バニー、初めて眼鏡を買う中学生女子、ぶかぶかの制服を着る中学生女子、昔買ったきわどい水着を畳の上で着る人妻、「何か好きなもので5p」と言われて描いた暖炉について、「何か好きなもので6p」と言われて描いたコルセットについて。誰得なんて言葉は森先生に届くはずもなく、己の描きたいものを描きたいままに描いてやったぜへっへっへ、と言わんばかりのものばかりになっています。森先生の、ものや仕草の描きこみに賭けるひとかたならぬ情熱は『エマ』や『乙嫁語り』でもお馴染みですが、短編やイラストでもまるで手抜きがありません。
たとえば、初めて眼鏡を買った女子中学生を描く『見えるようになったこと』。少女が母親の前で眼鏡をかけるシーンに、眼鏡を手に持つ→伏し目がちになって途中までかける→かけきって照れながらもにっこり微笑む、と3コマも費やしたり、眼鏡をかけて世界がこんなに明瞭なものだったのかと驚く少女を上気した顔で描いたりと、「眼鏡」という物体と絡み合う少女のかわいらしさが溢れんばかりの愛で描かれています。
たとえば、昔買った水着を箪笥の中から見つけた人妻を描く『昔買った水着』。水着を手にする妻を見る夫の視点から描き、夫の姿も声も登場しない。昔買った水着を恥じらいながら着る妻を舐めるように見ながらも、不思議とそこにはいやらしさがない。あるのは、齢を重ねて妖艶さを増した妻に対する昔以上の愛情。いや、見ている夫に情欲はあるのだろうけれど、それが読み手に伝わる時には性的なものが抜けてしまい、美麗さがだけ残る。それは森先生の絵ゆえだろうか。障子を通して柔らかくなった夏の日差し、首を振る扇風機、無造作に置かれる座布団と転寝用の枕、そして畳。雑然とした和室の中で水着になる妙齢の美女。背徳的すぎて、もうエロくない。
とまあこんな具合の濃密さ。初心者にゃきついがファンには嬉しい。あとがきマンガ的な軽いノリの作品もあるので、自分的にはそれが嬉しかった。森先生はそういう作品をもっと描いてもいいと思うの。
お気に入りは上記の『見えるようになったこと』。女子中学生の眼鏡はもちろんの事、私服がとってもかわいい。
ファンなら買っとけ、みたいな。


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