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君は数寄のために死ねるか!? 『へうげもの』の話

時あたかも戦国時代。後に天下の茶人として名を轟かせる古田織部正重然も、この時は主君に仕える一介の使番でしかなかった。着々と領地を広げる武人にして、天下の名器を所有する粋人である主君・織田信長の人柄に触れ、彼の心も武と数寄の間に揺れる。信長、豊臣秀吉明智光秀千利休。多くの人間との出会いは、古田にどのような生き方を選ばせるのか。
君は数寄のために死ねるか?

へうげもの(1) (モーニング KC)

へうげもの(1) (モーニング KC)

ということで、いまだに「HYOUGEMONO」ではなくそのまま「HEUGEMONO」と読んでしまう私による、山田芳裕先生『へうげもの』のレビューです。
たいがい歴史物と言えば、一人の人間を軸にして戦や恋愛などをテーマにすることが多いですが、この作品では大名にして茶人・古田織部を主人公にして、数寄をテーマに戦国後期から江戸初期を描いています。そのため登場するキャラクター、もちろん彼らは史実にある人物ばかりですが、その人間性や行動理念の切り口が面白い。数寄のために武を投げうつ者、数寄を武の道具にする者、数寄をまるで解さない者、数寄を解したいと熱望する者、そして数寄に生命を賭ける者。血で血を洗うような戦国の世で、物、拵え、所作などでその者の風流さを計る数寄が隠然と力を持っている。事実と比べれば過剰に高く扱っているかもしれないけれど、そういう戦国の世では人はどのような生き方を選ぶのか、というifの群像劇として非常に魅力的に仕上がっています。
何が魅力的ってキャラクター皆が皆、対象こそ違えど己の欲望に忠実なのがいい。日本を越えて大陸まで支配したいと企む信長。己の理想とする「わび」を世に広めるために謀略を巡らす千利休。信長に流浪の自分を拾ってもらった恩を忘れられないままに天下統一の野心を抑えられない秀吉。名物である釜の蓋を手に入れるために崖から身を躍らす古田。体中に滾る欲望が彼らの行動を後押ししています。
そんな欲が溢れだしているのが、この作品の特徴の一つでもある表情です。欲望の多さは感情の強さ。実に多種多様な表情が作中で表れています。

(八巻 第八十二席)

(五巻 第五十二席)

(六巻 第五十八席)

(九巻 第九十二席)
これらはほんの一例で、出オチレベルの顔芸ばかりですよ。
いつ死ぬかもわからない戦国の世、漫然と生きてはつまらない。数寄に命を懸ける古田は千利休に師事し、彼の死後、自らの価値観を世に広めだします。さしたる武功のない古田も、数寄の力により強い影響力を持つようになった。それは

「美」とは強きものですな……
そう…… それは「武」に等しく……
(三巻 第三十席)

と、本能寺の変後に討たれる明智が死の直前に漏らした言葉を裏付けるようです


絵に癖があるため、万人にお勧めとは言い難いですが、普通の歴史物とは一味違った切り口と、人の欲望をあけすけに曝け出す人間描写でどんどん物語にのめりこんでいきます。
併せて、昔書いたこの記事(「物語」としての歴史の善悪と、「へうげもの」の数寄心フィルターの話)を読んでいただけると、またちょっと違う視点で作品を読めるかなと思います。



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