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漫画の話です。

歴史の傑物が異世界で埒外の大暴れ 『ドリフターズ』の話

時は1600年、関ヶ原の戦い島津豊久は、叔父で養父の義弘を敵勢から逃がそうと、勇猛名高い徳川井伊の赤備えに単騎で挑んでいた。大将首の井伊直政を斬りつけたものの、自身も深手を負う豊久。だが、一人瀕死の身体を引きずっていた彼は、突然まるで場違いな石造りの廊下に迷い込む。延々と伸びる廊下の両壁には扉が並び、豊久の前にはデスクに腰掛ける眼鏡の男が一人。彼が手元の書類にサインを走らせると、豊久は扉の中に飲み込まれた。意識を失った豊久が流れ着いたのは、戦国日本とは似ても似つかぬ、剣と魔法が支配し、人間と亜人デミヒューマンが住む王道ファンタジーの世界だった。豊久のように異世界からやって来たものが漂流者ドリフターズ、廃棄物と称される世界。ここで彼を待つ運命とは……

ドリフターズ 1 (ヤングキングコミックス)

ドリフターズ 1 (ヤングキングコミックス)

ドリフターズ 2 (ヤングキングコミックス)

ドリフターズ 2 (ヤングキングコミックス)

ということで、平野耕太先生『ドリフターズ』のレビューです。歴史上の人物が異世界に飛ばされるという、男の子の心をくすぐらずにはいられない素敵な設定。で、そこから展開されるお話も、平野先生が描く以上ほんわかしたものであるわけがない。血が吹き出し、首が飛び、搾取と反乱と殺戮が常態と化しているダークファンタジー。
豊久は漂流者ドリフターズとしてこの世界にやってきましたが、そう呼ばれているのは彼だけではありません。豊久と行動を共にするのは、既にこの世界に飛ばされてきていた織田右府信長と那須資隆与一。時代がずれている三人ですが、共通しているのは、三人が三人とも、鬼のような戦上手であること。示現流の流れを汲む剣士豊久。騙しに焼き討ち、戦略なら何でもござれの策略家信長。百発万中の弓の名手与一。この三人がいるのは、亜人デミヒューマンの一種族である、エルフ村近くの廃城。40年前、人間によって自分たちの国を滅ぼされたエルフは、いまや農奴として人間の支配下にあった。深手を負ってこの世界に飛ばされたところを、エルフらによって助けられた豊久は、義のため彼らの反乱に助太刀する。根っからの戦好きである信長、与一と共に。剣で、策略で、弓で、ばったばったと人間たちを討ち殺していく三人。その姿は、純然たる殺戮行為であるにもかかわらず、いっそ爽快で、なによりかっこいい。
そう、この作品の魅力は何かと問われたら、簡潔に言えばかっこよさです。とにかくかっこいい。読んでてゾクゾクするし、ワクワクする。異世界から来た漂流者ドリフたちの倫理観・死生観は、この世界のそれとはまるで違う。

そうか この人達が私達と決定的に違うのは
知識や技術や文化がどうとかではなく
死生観が違うんだ
(2巻 p53)

漂流者ドリフは異物。もとからこの世界にいる者にとって圧倒的に異邦人。その異物・異邦人が、己の武を奮い、敵を余さず薙ぎ倒していく。油断なく、遅滞なく、誤算なく、異常の力でもって累々と築き上げられる死体の山は、その凄惨さにもかかわらず見る者の心を奪う。とにかくかっこいい。恐れと憧れで豊久らを見るエルフらと同じ目で、私もページをめくっていることでしょう。
そして、根本の疑問。何者によって、なぜ漂流者ドリフはこの世界に飛ばされてきたのか。その疑問はまだ明らかにされていません。ただわかっていることは、漂流者ドリフターズは廃棄物と闘う事を意図されているということ。漂流者ドリフと同じくこの世界に飛ばされて来た人間ではあるものの、彼らとは違う存在。それが廃棄物。何が違うのか。曰く、「人ならざる悪しき者・・・・・・・・・」「もはや人と言えない」「ただひたすらにこの世を憎んで憎んで憎みきっている」。
そんな彼らを率いるのが、黒王と呼ばれる廃棄物の王。ゴブリン、コボルト、竜らを引き連れ、人間たちを滅ぼし、滅ぼし、滅ぼさんとする黒王を討ち、この世界を救うべきとされるのが漂流者ドリフの役目。いわば世界の救世主。
でも、この世界の正しさとは何なのか。大義は何なのか。人間は正しいのか。亜人デミヒューマンは正しくないのか。それがまだ、わからない。わからないが、漂流者ドリフは戦う。この世界とは遠く隔たった、己らの理念でもって。
なにもわからない世界であろうと埒外に振る舞う漂流者ドリフの強さは、とてもかっこいい。


で、そのかっこよさの合間合間、あるいはかっこよさこそがこれらの合間合間なのかもしれないけれど、まるでテンションの違うギャグパート。歴史上の人物が登場するものだから、歴史ネタが光る光る。もうゲラゲラ。恒例の巻末漫画やカバー下漫画ももういい意味でひどすぎる。ステポテチーン。


1巻からだいぶ待たされましたが、待っててよかったと思わされる2巻のかっこよさ。大満足です。
さて、3巻はいつになるのかな……



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