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『HUNTER×HUNTER』アニメと比較して浮かび上がる、原作の特徴の話

なぜか再びアニメ化されることになった『HUNTER×HUNTER』。

HUNTER X HUNTER 1 (ジャンプ・コミックス)

HUNTER X HUNTER 1 (ジャンプ・コミックス)

アニメやってんだからしっかり本誌も連載してね☆という編集サイドの願いなのかどうかは知りませんが、ともあれ連載はしっかり続けてほしいです。ていうか、単行本をしっかり出して。
で、関東では今日放送されたのですが、その感想と、アニメと比較して改めて気づいた原作のポイントなどを少々。以下、アニメ『HUNTER×HUNTER』第一話のネタバレこみで話します。まあ原作の一、二話分と筋がそれほど変わっているわけではないのですが。
さてアニメ第一話の感想。まず感じたのは、「毒気が抜かれてるな」ということです。ゴンをはじめとして、ミトさん、クラピカ、レオリオと、彼らの人間性の造詣・描写が、ニチアサらしくえぐみの少ないものとなっていました。えぐみが少ないというか、わかりやす過ぎるというか。
上に書いたように、アニメ第一話は原作の一、二話の筋を踏襲しています。ゴンがクジラ島を出発、船上でクラピカ、レオリオと出会い、嵐を抜けるまで。
その冒頭。ハンター試験を受ける条件として沼の主を釣り上げたゴンは、意気揚々とミトさんの前に出て、受験許可を求め、目を伏せた彼女の沈黙を無言の肯定と解釈しました。そこには、原作であったやりとりが抜けています。

「そうだよ 言葉には責任もたなきゃね
約束を守れないような人間にはなるなって 教えてくれたのはミトさんだよ!!」
「好きにしなさい」
(1巻 p14、15)

条件をクリアしたにもかかわらず受験に難色を示す彼女に、彼女自身の言葉を逆手にとって許可を促すゴン。そういう彼の、自分の望むことに邁進する良くも悪くも一本気の性格、見方を変えれば、皮肉になることを承知で発言し、相手の気分を害そうとも言質を取ろうとする自己本位の性格がここには見て取れるのですが、それがアニメではありませんでした。
同様の事態は、あるシーンをカットしたことでも起こっています。
原作にはあった、酒を飲んでミトが荒れ、ゴンの発言から彼女がゴンとジンを重ねる、部屋を出ていった彼女が散らかしたテーブルをゴンが片付けるというシーンがアニメではありませんでした。このシーンでは、酒を飲んで荒れるミトという彼女の弱い部分、彼女の神経を自分の言葉で逆撫でしたことを自覚した上で、彼女が荒らしたテーブルを冷静なままに片づけるゴンという彼の醒めた部分が現れています。特に後者のゴンの様子から、彼の精神がただ12歳のものではなく、自分のルール、目的のためには状況を人並み外れて醒めた目で見られるという、以前の記事でも書いた彼の子供らしからぬ一面が読み取れるのです。
なもので、先に書いたことも含めて、そういう一面が描かれないアニメのゴンは、かなり子供っぽく見えるのですよ。
クラピカ、レオリオについても、その描写は一面的と言うか、表面に出ているものとは違うものが奥に隠れているという印象が、薄くなっています。
特にレオリオなのですが、彼が自分のハンター志望の動機は金であると公言するシーン、原作ではアクを出しつつも一コマでさらっと描いています。

(1巻 p53)
この自然な描き方のために初読では彼の印象が悪くなるのですが、その直後のクラピカとの決闘の最中、壊れたマストが直撃し船上から海へ放り出されそうになった船員を助けようとした時、彼はクラピカより早く反応し、船員を助けようとします。

(p57)
その行動に、クラピカは人命を大事にしている彼の性根を理解し、和解することになります。
それまで読み手は、わかりやすい大義のためにハンターを目指すクラピカの態度、俗悪なレオリオの態度から、自然とクラピカ側に肩入れして読むのですが、決闘を投げ捨てて救助に向かうレオリオの行動に驚いたクラピカの様子(それは3点リーダで端的に表されています)に読み手が同調することで、レオリオへの印象が一気に反転します。このギャップから、レオリオは実はいいやつなのか、じゃあさっきのお金大好き発言の裏にもなにかあるんじゃないか、と読み手は勘繰ることができるのです。
一方アニメでは、まず公言するをシーンギャグ交じりにしてかなり誇張して描かれていました。いわば、彼のこの態度は露悪ですよとわかりやすく明示していたのです。そして決闘の最中の救助シーンも、レオリオとクラピカが船員を助けようとするタイミングが同時でした。「クラピカよりも人命を大事に思っているレオリオ」像がそこにはありません(原作で後に描かれるように、クラピカは自分の目的のためには、時として人命をひどく軽く扱います)。だから、レオリオにギャップが生まれない。見てて、なんか普通にいいやつっぽい、という印象を持つ。言っちゃえば、ちょっと厚みがない。
また、実はアニメでは過去のカイトとの出会いが丸々カットされているので、ゴンが自分の父親がハンターであったことを知っている理由、ハンターになって父親に会いたいというゴンのハンター志望理由に裏付けがなされていません。ハンターになりたい、父親みたいになりたいということが言葉だけで表されているので、やっぱりゴンの行動原理が子供っぽく見えてしまう。
それに関連して、キツネグマのコンに別れを告げるシーンもカットされています。12歳の子供が、自分の目的のために友人と永の別れを覚悟する。そういう、やはり子供らしからぬシーンがない。


とまあ、アニメ一話を見る限り、原作と比較すれば、かなり毒気を抜いた内容、厚みを抑えた内容になっていると感じました。テレビという媒体、ニチアサという時間帯、全何話という全体量の縛りなど、多くの制約があるわけですから、原作と全く同じテイストに出来る訳はないし、する必要もない。原作の『HUNTER×HUNTER』が素晴らしい作品であることは間違いありませんし、その方向性の作品としてハイエンドであることも間違いありませんが、その方向性が全ての作品がとるべき姿ということでは、決してない。ま、私は原作的つくりの方が好きですけども。
さて、原作は第一話からこんな作り方をしていたのだと、あたかも以前からわかっていたかのように書いてきましたが、実のところ、方向性・作り方を変えているアニメと比較して、初めて原作の特徴がくっきりと浮かび上がってきたのです。ああ、なるほどこういう作品だったのか、と。
あと、『HUNTER×HUNTER』の情報量の濃密さを改めて実感。絵、コマ割り、セリフ回しなどが輻輳的に影響しあうことで、様々なニュアンスが生まれているのがよくわかりました。やっぱり冨樫先生は偉大やで……



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