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充実した日常のための家事と、恋多きバイと 「放浪の家政婦さん」シリーズの話

放浪の家政婦さん (Feelコミックス)

放浪の家政婦さん (Feelコミックス)

ピリ辛の家政婦さん (Feelコミックス)

ピリ辛の家政婦さん (Feelコミックス)

不細工、長身、痩身、口も悪いし性格も悪い、おまけにバイ。でも、男女問わずモテるし、家政能力非常に高し。小田切里は家政婦協会に所属するメイドさん。依頼があれば、どこの家庭にでも行って、一流の技で家事をこなす。難しい年頃の女の子を抱える父子家庭。小説家と編集者の忙しい共働き夫婦。引越し間際の崖っぷち脚本家。妻を亡くした父子家庭。5人の20代男女によるシェアハウス。憎まれ口をたたきながら作る里の料理は、日々の糧として依頼者達に力を与えていくのです……


ということで、お久しぶりです。山田です。約1ヶ月ぶりのご無沙汰。別にどこに行ってたわけではないけど帰ってきた最初の記事は、小池田マヤ先生の『放浪の家政婦さん』シリーズのレビューです。
簡単に言っちゃえば、主人公である小田切里が色々なお宅に派遣されて家事をする話。で、各家庭ではそれぞれなんらかの問題や事情があるのです。そうじゃなきゃ家政婦さんを雇いはしませんし。特に、里に回ってくる仕事は難易度の高い家庭ばかり。家政婦いびりをする娘がいる家や、母親が死んだショックからほとんど喋らない男の子のいる家、生活時間がバラバラの若者五人が暮らす家(まあこれは偶然だけど)などなど。で、なんでそんな仕事が回ってくるかといえば、答えは簡単、里が有能だから。派遣評価Sランクの里は、見た目や性格はともかく、とにかく仕事が出来るのです。掃除を任せれば家中ピカピカ、保育を頼めば気難しい子もしっかり面倒を見、料理をさせれば家庭料理からパーティー料理まで舌が肥えた人間も満足させる絶品を作る。
数多の家事の中でも、特にこの作品でプッシュしているのが料理。出てくる料理は巻末にレシピが書いてあるのも多いのですが、決して豪華なものばかりではありません。上に書いたように、家庭料理からパーティー料理まで、洋の東西も問わず色々と出てきます。
シリーズで通底している料理のテーマは、2話で出てきたこの言葉、「家事はすべからく日用の糧になること」。豪華ならいいってものではない、手が込んでればいいってものでもない。TPOに応じた、食べる人が欲しがっているものを用意するのが、日々の食事。

スペシャルはたまに起こるからスペシャルなのよ
だから そのつまらない毎日を生きる力をつけるものが必要で それが私は家だと思うの
料理でも何でも… 家事は全部充足のためにする事
それが私のモットー
(放浪の家政婦さん p63)

これはその前に書いた言葉と同じく、里の尊敬するある家政学教授のもので、家事全般について述べたものですが、シリーズを通して読めば、やはり特に料理について言っているのかなと思うのです。
若妻がいくら丹精込めた料理を作っても箸をのばさない小説家は、里の作った「バクダン」(丼を使って簡単に丸めた巨大おにぎり)を喜んで食べました。母親が死んでから心を閉ざし食も細かった子どもは、かつて母親が作ってくれた料理を再現してもらい、喜んで食べました。時間帯がバラバラで共同スペースにもほとんど集まらなかった五人のルームメイトたちは、綺麗にしてもらったリビングでカレーを喜んで食べました。
つまらない毎日と言うのは言い過ぎかもしれませんが、特に代わり映えのしない毎日、辛いこと、面倒なことが転がっている毎日を乗り越えるためには、元気の出るものを食べたい。美味しいのはもちろんですが、そもそも何を美味しいと思うのか。自分はどんな食べ物を欲しているのか。そういうことをピピッと見抜く里が作る料理は、家の人たちに活力を与えるのです。
つーかマジ美味そう。パーティー料理っぽいのは1話しか出てこないのですが、そんなのより普通の料理が非常にそそる。炊き立てご飯で作る「バクダン」を漬物と一緒に食べるとか、疲れた仕事の後に飲む自家製ミントのジュースとか、夏にベランダで食べるカレーとか、もうひどい。いい意味で。とりあえず暖かくなってきたんで、ミントの鉢を買おうかなと思ってます。


で、この作品の面白いのは料理だけではなくて、恋愛にまつわる人間模様なんかも、かなり切れ味鋭く描いています。そもそも両刀使いの里ですが、ブスだし(自称他称で作品内で言われまくり)、背は高いし(185cm)、身体は貧相だし、優しいし気は利くけど決して性格は良くはないし。なのに、男女両方から非常にモテる。作中では「余裕ある」「満たされてる感っつーかイライラガツガツしてないし」と他人から言われ、当人は「いつか私の中のドルシネア姫に気づいてくれるドン・キホーテが現れてくれると夢を見た 私も愛しいろくでなしの助けになりたいと思ってる ブスでもモテるのはそのせいだと思ってる」と分析しています。身も蓋もない言い方をすれば、破れ鍋に綴じ蓋ですか。助けを欲しがってるろくでなしがいて、ろくでなしを助けたがってる里がいて。そこが噛み合えば、ブスだろうが背が高かろうが口が悪かろうが恋人は出来る、のかしら。性別の壁を越えて。
けど、鍋は割れてるし蓋は修繕されている。完璧な組み合わせなんて人間関係では存在しません。それが恋愛関係ならなおさら。

恋人には甘やかして大事にしていつだって嬉しそうに笑って欲しいよ
昨日のあのコだって付き合い始めはそうしてたし 本当はずっとそうしたかった
泣かしたり傷つけたりなんかしたくなかったんだ
でも付き合ってるとそううまくはいかないだろ?
(ピリ辛の家政婦さん p134)

誰だって、誰にも言えないことを抱えてる。誰に癒せるわけでもない傷がある。ふとしたときにそれは顔を覗かせ、相手はそれを受け止められなかったたり、反対に傷つけられたりする。そこで人は離れていくか、それでも近いままでいるか。恋人。夫婦。家族。友達。親子。部下と上司。関係性は色々あるけれど、一歩踏み込めばどうなるかわからないのはどれも一緒。関係性が生まれては崩れ、また直り。そんなことが繰り返される様が、どんな日常の中にもあるのです。ご飯を食べたり、お風呂に入ったり、子どもを育てたり、そんなのと同じ日常の中に。楽しいことばかりではない日常を暮らすために、人は家事をするし、里はそれを助けているのです。


日々を暮らすとはどういうことかを、色々な人間関係を通して描いている「家政婦さん」シリーズ。2巻目が特に料理の色が濃いですが、挨拶や日々のルーチン性の大事さなど、「暮らし」がやはりメインテーマ。普段気にしていなかった日常を振り返ってみると、色々気づくことがあるかも。特に誰かと暮らしている人なら。
いつになるかはわかりませんが、続刊が楽しみなのですよ。
あと、冷やして食べる、日本酒で炊いたバナナご飯がすっげえ気になる。どんな味なの!?




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