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少年達の危うい「正義」と危うい「力」が危うく出会う 「なにかもちがってますか」の話

なにかもちがってますか(1) (アフタヌーンKC)

なにかもちがってますか(1) (アフタヌーンKC)

物心ついてからこの方、日々に微妙な違和感を覚えながらも平々凡々に過ごしてきた中学生・日比野光。彼が三年に進級する春、一人の転校生がやってきた。彼の名は一社高蔵。まるで女の子のように端正な顔立ちをした一社だが性格は悪く、転校初日の自己紹介のときからトラブルを起こす。そして、その最中にある能力を開花させた日比野は一社に見込まれ、「その力で、一緒に世の中の間違いを正す」と強引に誘われた。一社の語る「正義」は穏やかなものではなく、その「正義」を実行することは法に照らせば犯罪でしかないのだが、まだ能力に振り回されている日比野は、揺ぎ無く力強い一社の言葉に引きずられ、彼の言う「正義」の共犯者となる。社会に相容れない正義を持つ一社と、社会に相容れない能力を持つ日比野。社会に相容れない少年たちは、どこへ向かうのか……


ということで、鬼頭莫宏先生の新刊『なにかもちがってますか』のレビューです。誤字じゃないです。なにももちがってないです。
イブニングにて連載中で、2巻が本作と同時発売された『のりりん』とはまるっと趣の変わっている、というか今までの作品を見れば『のりりん』の方こそ趣が変わっているもので、本作は鬼頭先生平常運転といった感じの作品なのです。
主人公の一人、超能力者の日比野は温和な性格で、学校の不良たちとも普通に会話できるくらいには社交性があり、片思いの女の子と一緒のクラスになれたくらいのことで心から喜べる、良くも悪くも普通の中学生男子です。もう一人の主人公・一社は、彼自身は特別な能力のない一般人の男の子。けれど、その中身はあまりにもとんがっています。

あんなやつ 生きていても役に立たないだろ
社会ってのはな 単純化すると 頭脳役と肉体役に分かれる
(中略)
幸い社会の観点においては代わりの手足はいっぱいある 出来損ないの手足は 処理すればいい
つまり
労働力にしかなりえない人間は どんどん殺していい
それが 言うことをきかない出来損ないならなおさら
(p51,52)

全体のためにためらいなく個を犠牲にする。社会の円滑な運営のためなら殺人も許容される。少なくとも現代日本においては、思想の範疇にとどめておかない限りはとうてい容認されない考えです。おまけに能力による選民思想
そんな彼が日比野と組んで行う「正義」の第一歩として選んだのは、「車を運転しながら携帯電話を使っているやつを殺す」というものです。罪状と量刑があまりにも不釣合いなこの「正義」について、一社は言います。

ルールを守れないやつに制裁を加え 社会から駆逐するのが目的なんだ
同乗してるやつは当然同罪だし 巻き込まれたやつはより良い社会への殉教だから仕方がない
(p117)

ルール。社会のためのルール。社会が存続するためのルール。正義のためにルールがあるのではなく、ルールによって正義が成り立つ。その物言いは、鬼頭先生の完結作品『なるたる』で登場した須藤とそっくりです。

その行為が正しいものかどうかではなく 一旦決められた社会のルールが守れない その精神が問題なんです
凡夫は規則を守ることが生存の絶対条件だ ということです
なるたる 7巻 p139)

なるたる』と本作の違いは、「力」と「正義」が同じ一人の子どもにあるのか否かという点なのですが、まあその話は別の記事でおいおい。


とにかく、(なかば無理矢理)一社と行動を共にするようになった日比野。第1話こそ、日比野の能力と一社の不穏な存在感にスポットライトが当たるだけの、落ち着いた滑り出しだったのですが、第2話にして早速話は急転します。なんといいますか、鬼頭先生の面目躍如的な事態が起こるわけで、あえて具体的なことは言いませんが、まあそういうことです。
その事態に、意図せずとは言え自ら力を振るった日比野は恐れ、悩み、苦しみますが、同じ場にいて、日比野以外では唯一事態の内実を理解していた一社は、平然とした顔で持論を展開し、事態を整理しようとするのです。一社の冷静さにひっぱられる、あるいは惑わされる形で、日比野は彼の「正義」につき合わされ、上にも書いた携帯電話使用運転手撲滅キャンペーンに手を染めていくのですが、1巻の最終話でそれは日比野に痛恨の一撃を見舞うのです。いわばそれは、人任せの「正義」に振り回された日比野が初めて味わった現実との衝突でした。そして、彼は一つの決心をします……というところで、最新刊の本誌につながる、と。
力に振り回される少年。ためこんでいた「正義」を実行できる「道具」を手に入れた少年。
なるたる』や『ぼくらの』などで描かれてきた、行動の伴わない思想と、思想の伴わない行動と、行動によって具体化された思想と、行動の果てに踏み込んだ思想の内側と。そういうものがまた角度を変えた切り口で本作でも描かれて行くのだろうということが、1巻の段階からひしひしと伝わってくるのです。
同時発売の『のりりん』とあわせて、是非どうぞ。あ、『のりりん』の方は平和だよ!


※追記 講談社のサイトで第一話が試し読みできます。
good!アフタヌーン なにかもちがってますか



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