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「百姓貴族」に見る、荒川弘の人間観のルーツの話

百姓貴族 (1) (ウィングス・コミックス)

百姓貴族 (1) (ウィングス・コミックス)

漫画家になる前は、北海道の実家で農業に従事していたという荒川弘先生。そんな彼女の体験からなる農業エッセイ。マジモンの農業から縁遠い生活を送っている人にとっては目を丸くするような文化が、ぽこぽこ溢れてます。
基本的に無料(正確には物々交換)で手に入れられる肉・野菜類だとか、真冬の深夜に風呂上りのパン一で牛舎まで行く父親だとか、畑でとれる鮭だとか、無料でもらえるダース単位のB級マスクメロンだとか、畑で穫れる鹿だとか、ウッソーンと言いたくなるようなエピソードで一杯です(一部ウソあり)(父親は別に農業関係ない)。
とろける鉄工所』(野村宗弘)や『モーレツ!イタリア家族』(ヤマザキマリ)のような、余所様の文化を覗き見させてくれる作品で、『鋼の錬金術師』でしばしば見られるギャグテイストを前面に押し出しつつも、職業として生き物と付き合っている(酪農もやってます)人間が向き合わざるをえない、人間の業みたいなものも入ってたりして、かなり満足度の高い一冊になっております。
で、そんな『百姓貴族』の中にこんな一節が。
「『働かざる者食うべからず』は荒川家の家訓」(p50)
実際に本作を読めば、荒川家のメンバー(含ペット)がそれを実践して生きていることはよくわかるのですが、荒川先生の出世作である『鋼の錬金術師』の単行本巻末駄話で、まるっと同じことが書かれています。

家訓は「働かざる者食うべからず」
「鋼の〜」に働く女性が多いのはこれが理由です
(12巻 p185)

女性に限らず、『ハガレン』に登場する人間は、ほとんどが何かしらの職でもって生計を立てています。炭鉱夫、オートメイル技師、医者、コソ泥(職じゃないけど)、そして軍人たち。軍人の中でも、前線に立つような人間ばかりでなく、事務方の人間も登場しています。
成人だけでなく、子どもも多く働いているんですから、荒川先生の人間観がよく見えようというものです。
どんな形であれ、働くというのは、社会の中で生きる以上至極当然の行為です。そんな当たり前のことは、当たり前なだけに見過ごされやすく、また、ともすれば退屈になりがちなもの。
ですが『ハガレン』では、そのようなものを格別前面には出さずとも、日常の描写の中に確実に挿入しています。誰もが働いていることが解るというのは、誰もが地に足着いているという事で。この地に足着きっぷりが、『ハガレン』の世界の人々に具体的、実際的な血肉を与えているのかなと思います。人間が何を考えて生きているのかというのに日々の生活は切り離せないわけで、何を生計としているのか、その生計の性質は、賃金は、労働形態はなどなど、そういう諸々が見えることで、人間性の背景も垣間見えてくかな、と。
賃金はそれほど高くないけど、地域密着性の高い炭鉱夫。傷ついた人や生死の現場に居合わせるオートメイル技師や医者。人を守り、時として人を殺す軍人。職業倫理という言葉があるように、ある程度通汎性のある、職に応じた人間性というものは存在すると思うのですよ。


あと、同じく12巻の巻末で書かれていること。

Q.キャラの肉付きいいよね
細っこいとメシ食わせてもらってないみたいでかわいそうじゃないかーッ!!!
(12巻 p185)

ものが食えなきゃ幸せになんてなれねーぜ、と食糧生産に携っていた人間としてのお言葉が飛び出すあたり、荒川先生の人間観・人生観は、農家時代にしっかり培われていたのだなと思うのです。
ハガレン』と合わせて、『百姓貴族』お薦めですのん。




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