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28歳処女の不器用な「スキ」の気持ち 「Love,Hate,Love.」の話

よーしおじさんメディアの尻馬にのっちゃうぞ!
ということで「このマンガがすごい!2011 オンナ編」で、見事初の同一作家でのワンツー独占を決めたヤマシタトモコ先生の作品のレビューです。ただし、受賞した『HER』、『ドントクライ、ガール』ではなく、『HER』と同じ祥伝社から刊行されている、『Love,Hate,Love.』のだけどな!

Love,Hate,Love. (Feelコミックス)

Love,Hate,Love. (Feelコミックス)

江宮貴和子は髪を切った。それは、ダンサーとしてステージに上がることを諦めた印だった。3歳の時から25年間、ずっと続けていたバレエ。それは、好きだけど、嫌いで、でもやっぱり好きで、すごく好きで。そんなバレーを諦めた自分は、なにをすればいいのか。やりたいことは色々ある。新しいことをしてみたい。そう、たとえば恋なんか。
今までやってこなかったことの一つとして、マンションのベランダで煙草を吸ってみた貴和子は、中学生みたいに咳き込み、たまたま同じくベランダで吸っていた隣人と知り合うことになった。縫原桂介52歳。大学でドイツ文学を教えてる。自分と二周りも違う相手との恋に、怯える貴和子。だって、今までずっとバレエにかまけてて、恋愛の経験少ないし、長続きしたことないし、なにより、処女だし……。


とまあ、こんな感じの導入です。処女云々は冗談ではないです。実際、主人公・貴和子にとって自分が処女、貫通前であることが、縫原に対する大きな気後れになっています。
長年、それこそ今までの人生を捧げていたといってもいいほどに打ち込んでいたバレエ。一つのことに時間を費やすという事は、言い方は悪いですが、他の何かを犠牲にしているということです。「犠牲」というパセティックな言葉を使わなくても、他の人が普通にやっていたことに時間や体力を回せなかったという事は確かで、その一つが恋愛であり、その端的な表れが、未貫通というわけです。
うん、あれだ、あんまり未貫通にこだわりすぎるのも何なので話を進めますが、そんな彼女にも家族はいます。友人もいます。長い付き合いの、友人以上恋人未満くらいの異性だっています。そんな人たちに、ステージを諦めて、二周りも離れた人を好きになってという話を打ち明けると、皆、一様に鈍い反応を示します。
「親にさんざん金使わせといてモノになんなかったから諦めんのか」
「50過ぎとか生理的に理解できないし」
「薄情だな 子供ん頃から一緒にやってきたのに一言もなしにやめるって そんな感じ?」
貴和子も、好き好んでバレエを諦めたわけじゃない。むしろ、好きだから、諦めなくちゃいけなかった。好きなものを、本当に好きなものを心から嫌いになりたくないから、その前に諦めた。それに、挫折に打ちひしがれてるわけじゃない。やりたいことだって、ある。それが、恋。
縫原は、落ち着いていた。彼女の話を聞いても、他の人みたいに感情的にならない。逆に、ズバーンと心に届くようなことを、はらりと言ってくれる。
でも、今までバレエにかまけて人と深くコミュニケーションをとることを怠っていた貴和子は、縫原とどう距離を詰めていけばいいのかに困ってしまう。ああだこうだと苦悩して、結局ほとんど身動きできないで。
縫原は縫原で、貴和子に気後れを覚える。彼女に好意を抱いても、今まで彼女が付き合ってきた男と、老境に差し掛かりつつある自分を比較されることが恥ずかしく、辛い。貴和子には、そんな比較できるような恋愛経験なんてないのに、社交経験の乏しい彼女はそれをどう伝えていいのかわからない。
交わるようですれ違うようで、好きなんだけどどうすればいいかわからなくて。好きだったはずのバレエを諦めた貴和子は、人を好きになるためにどうすればいいのか。
作中、貴和子は言います。
「…世の中はイイとかワルイとかゼンとかアクとかじゃなくて スキとキライだけでできてるっていう 何よりあなたをスキかスキじゃないか」
スキとキライとか、本当はとっても単純なもののはずなのに、色々なものがそれを複雑にしていく。本当は自分は何がスキなんだっけ。スキなものがスキな自分の気持ちってどんなだっけ。
そんなことを思い出し、再確認していく貴和子の物語なのです。
あるシーンで貴和子が言う「立とうと思って立ってます!」。この言葉は、彼女の表情と一緒に、諸々のものをひっくるめたとても清々しいものだと思うのですよ。


『HER』も『ドントクライ、ガール』も勿論面白いですが、本作もなかなか滋味深くよいですよ。あと、短編集の『YES, IT'S ME』もお薦め。
YES IT'S ME (マーブルコミックス)

YES IT'S ME (マーブルコミックス)

ただし、こちらはBLものですので、苦手な人はご注意を。




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