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「HUNTER×HUNTER」アナーキーなゴンの内側にある限定的な「公正さ」の話

社会と倫理についてキルア編に入る前にちょっと寄り道して、前回の記事で興味深いコメントを頂いたので、そこから膨らませた小噺を一つ。

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ゴンの内的規範ですが、私はもう一つ『公正さ』があると考えます。
ハンター試験でのハンゾー戦での「ちゃんと二人でどうやって勝負するか決めようよ!」発言や、G.I.でのキルアの「プレイヤー同士がルールを決めた上で勝った方がカードをもらえるならアリだろ?」という意見に納得したことなどから、ゴンは互いに納得した上でなら命のやりとりすら認めています。
反対に他人が勝手な都合で自分や他の人のルールや生命を一方的に脅かすとき、ゴンは怒りを顕にします。『自分が決めたこと』を他人に左右されるのが一番許せないから、ルール=互いの取り決めを重んじる。そんな風に感じます。

なるほどと思いました。
そうなると、ゴンの倫理/論理は広範な社会には根ざしてはいないものの、限定的・個別的・クローズドな集団の中で、その都度、集団=場の成員と共有できるものを立ち上げるようなものである言えます。
社会内の倫理/論理は常に意識されるものではなく、それに反するような行為に出会ったときに初めて意識されるもので、その意味で、なくなって初めてそのありがたみがわかる空気と同じようなもの。暗黙のうちに共有を求められる場のコードを「空気」と呼ぶのは実に適切なわけですが、ゴンは社会的な論理を有さずに我を通す者、言ってみれば「空気」を読まない人間です。
で、ゴンは「空気」を読まない代わりに何をするかといえば、別の「空気」を場の成員と共に作り上げようとする。「空気」がなければ人間は呼吸ができませんが、代わりにLCL(@エヴァンゲリオン)を満たそうとするようなもので、「空気」(倫理/論理)が普段とは別物になろうとも、酸素供給ができれば(=コミュニケーションを成立させられれば=場を共有できれば)、少なくともその場においてはそれで問題はないのです。
一般的、汎通的な倫理/論理ではなく、その場の成員間で限定的に共有される一回性の強い倫理/論理をゴンは立ち上げるわけで、その際彼が求めようとする「公正さ」は、広く社会的に「公正」である必要はなく、場を共有している人間が同意できる範囲の「公正さ」であればいいのです。
ゲンスルーと戦う前にも

「オレは 問答無用でカードを奪うってやり方はキライだ
だから ここで約束しろ 先に「まいった」って言った方が 持ってるカードを全部相手に渡す…!」
「勘違いしてないか? お前は条件どうのと言える立場じゃない」
「言ったろ これは最後の譲歩だ
約束がなければただの強奪 そんな奴に死んでもカードは渡さない!!
約束なしじゃ たとえ殺されても もうバインダーは出さない!!」
(18巻 p10,11)

このような論理を立ち上げています。これは、グリードアイランド内では決して常識とは言えるようなものではありません。ゲーム内では、それこそ強奪(魔法含む)こそが常識のようになっていたのですが、それに対して「キライだ」からという実に我が侭な理由で、実力的には遥か格上のゲンスルーにNOを突きつけ、このルールを守れないようなら死んでもかまわないとさえ言っているのです。そりゃあゲンスルーも言いますよ。
「お前も狂ってるな オレとは違うところがだが」
このゴンの論理は、あくまで対ゲンスルーのこの一戦だけです。もし仮に他のプレイヤーと似たような戦闘をしたければ、その度に同様のルール設定をしなければなりません。非常に面倒くさい行為ですが、確実言えば確実。ですが、それを貫くことに命を賭けられるのなら、やはり「狂ってる」という言葉は当てはまってしまいます。


さて、この考え方はゴンの「仲間は大事」の特徴の一つである「仲間の範疇の緩さ」とも繋がり、場を共有する成員とその都度個別的に倫理/論理/ルールを立ち上げられればいいということは、その限定性ゆえに、容易に倫理を共有できるもの/できないものの峻別を行えるのだと思います。

それに 嘘だったらそれはそれで気が楽だし
容赦しなくていいから
遠慮なく倒せる
(23巻 p104)

嘘をついて襲ってくるような相手なら、たとえ一旦信じた(=仲間になった)相手でも、躊躇なく敵へと認識を変えられるのです。


ゴンが空気を読まないのか、それとも読み損なっているのか、あるいは根本的に読む能力がないのか、どれもありそうなところですが、彼は完全に個人的な内的規範のみで動くのではなく、少なくとも限定的・個別的には倫理/論理を作り上げ、ごく小さいクローズドな社会、というか場を作ることはできるわけですが、更にその場を包括するより上位の場(社会)の倫理/論理と競合しうる時がある、というのは前回触れたとおりですね。


ということでゴンの内的規範に関する小噺でした。キルア編は近日中に。
ちゃんと書くよ!




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