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漫画の話です。

「G戦場ヘブンズドア」に見る、戦友を繋ぐ「手」の話

少女ファイト」6巻に懐かしの面子が出てきたので、思わず「G戦場ヘブンズドア」を読み返しました。

G戦場ヘヴンズドア 3集 (IKKI COMICS)

G戦場ヘヴンズドア 3集 (IKKI COMICS)

何度か言ってることですが、真に魅力的な作品は、時をおいて読み返すことで新たな発見があるもので、今回「G戦」を読み返して、作中で「手」が印象的に使われるていることに気づいたのですね。
「G戦」自体漫画(家)をモチーフにした作品ですので、その中で絵を描く手がクローズアップされやすいというのも当然といえば当然ですが、その動作とは直接関係ないところでも、「手」は登場人物たちの心情を強く表しています。


それを最初に思い知らされたのは、Air.4「マダアエナイ」です。
シーンは出版社に向かう坂井大蔵。編集者の山田に昔拾った原稿にまつわるエピソードを語っている。

「そこで決めたのさ、描こうって。
もしこのままマンガを描き続ければ、あの少年がいつか私の本を読んでくれるかもしれない。
そしてまたマンガを描きたくなってはくれないかと。
だから私は売れ続けなくちゃならないんだよ」
「ものすごく遠まわしな激励ですね。先生らしい」
「そうだなあ。
でも
私ができることなんて、それくらいだよ」

(G戦場ヘブンズドア 1巻 p114,5)

坂井大蔵は空の自分の手を見て、自らの無力さを静かに嘆いています。
そしてページが変わり、シーンも転換。ハイヤーで出版社へ向かう鉄男、町蔵、久美子。今自分が編集者の父親にあってもいいのかと悩む鉄男に、町蔵が声をかけます。


行くぞ鉄男。
母ちゃんより自分のこと気にしろや。
プロになろうとしてまでそん時は、親父に会いたかったんだろ!?

(p117)

町蔵が差し出した手を、大蔵が助けたかった鉄男が取るのです。
そしてさらにページが変わった最初のコマ。

(p118)
空いていたもう片方の鉄男の手が、今まで彼を守りたかった久美子の前で通り過ぎていくのです。
直接/間接の差はあれ、昔から鉄男を気にかけていた二人ではなく、会って間もない町蔵が彼の手を取る。「戦友漫画」としての「G戦」を象徴するようなシーンだと思います。思い悩んでいる人間の背中を押すのは、先達でも恋人(未満ですが)でもなく、「戦友」なのだと。
このシーンでは、町蔵の手は鉄男に差し伸べられ、彼を前に踏み出させるというポジティブな意味合いをもつものになっていますが、別のシーンでは、無力感の象徴のようにも使われます。
新人漫画大賞の授賞式からの流れで、父である大蔵がかつて、母親が出て行った時も漫画をやめなかったのは鉄男のためだと勘違いした町蔵は、自分の境遇と鉄男の境遇を省みて、ふと自分の手を見ます。

(2巻 p61)
そして街を彷徨する町蔵。その最中に出会った久美子を抱きしめようとしますが、彼女は自分のものではないのだと、手は寸前で停まるのです。

そっか。
こうやって自分のことばっか考えて生きてきたから、バチが当たったんだな、オレ。
ああ、
そうだよ。
だから、
オレの欲しかったものは、
全部鉄男が持ってたんだな。

(p65,6)

無力感を噛み締めながら見つめた手は、ついに久美子を抱くこともできませんでした。


また、久美子は中学時代にやっていたバレーを手首の怪我のために諦めざるを得ませんでした。

(1巻 p75)
今まで打ち込んでいたものと、この怪我のためにまさに「手が切れて」しまったのですが、これは、自分のしてきたことに絶望した鉄男が死のうとしたときと同じ傷です。

(3巻 p119)
いささか悪趣味なシンクロながら、手が傷つけられたことで、二人の可能性の一つは断たれてしまったのです。


石波修高こと裕美子は、町田都に言いました。

マンガ家って、『シザーハンズ』のエドワードみたいだよね。
この手を使って生きていくしかないのに、この手がある限りは、大事な人まで傷つけちゃうんだよね
(3巻 p48)

手。漫画家にとっての手。誰かを導き、自分の無力を嘆き、それが傷つくことで未来が断たれる手。
手は「G戦」の中で様々にその容貌を変えますが、最後はやはり日本橋先生らしく、戦友の手をとり、未来へと進ませる役を担っているのです。
幸いにも命を取り留めたものの、もう手が同じように動くかもわからない鉄男は、連載を続けるか辞めるか決断を迫られたとき、諦めようとしたのですが、それを止めたのは町蔵でした。


オレが続きを作ります。
オレが鉄男の手になります。


もしお前がもう一度、
オレを震えさせてくれるのなら、
この世界で、
一緒に汚れてやる。

(3巻 p125〜130)

鉄男の手をとった町蔵は彼の手になることを宣言し、雨の日の誓いを思い出すのです。


まあそれでね、なんだかんだ言っても最高の「手」はやっぱりこれなわけですよ。

(1巻 p30)

(3巻 p193)
町蔵を漫画の世界に引きずり込んだ鉄男の「手」は、最初と最後で燦然とその印象を放っているんです。町蔵が鉄男の戦友であるだけでなく、鉄男もまた町蔵の戦友なのだと。何度読んでも泣くわ。


というわけで、「手」に着目してみた「G戦場ヘブンズドア」の話でした。
やっぱりこれは自分のベスト。坂井大蔵が弱気になったときに鉄男の原稿を読むように、町田都が仕事に詰まったときに「桜の道」の最終回を読むように、私も気力の萎えた時はこれを読むと、「とにかくがんばろう」とういう気になれます。最高。
少女ファイト」を読んでいる人も、是非また読み返すべきだし、読んだことのない人は全力で薦める。


余談。
少女ファイト」新刊で芸能界の話がちょろっとだけ出てきたので、今後コージ(「シンデレラ・ストライク・アウト」で出てきたケンジと硝子の子供。「G戦」にちょろっと出てる)が歌手として登場するのに500ペリカ






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